敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「未希」

 食後のコーヒーを淹れると隼人さんに呼ばれ、私は手を止めてリビングに向かった。

「なんですか?」

 どういうわけか神妙な面持ちをした隼人さんがソファに座っていた。

「ちょっとこちらへ」

 改めてどうしたのだろうかと気を引き締め、隼人さんの隣に腰を下ろす。

「どうされましたか?」

「一昨日、たしかにMitoの社長令嬢と会っていたが、そこには徳永もいてふたりで会っていたわけじゃない」

 出張から帰ってきた日に、隼人さんが水戸さんと会っていた件についてだ。

 母にも言われて心乱されたが、今は大丈夫だ。おとなしく隼人さんの話に耳を傾ける。

「徳永とは今、仕事でも少し関わっているんだ。本当は未希を待たせているから食事の誘いも迷ったんだが、ずっとあいつに抱えていたわだかまりを話したよ」

「え?」

 わだかまり、というのは徳永さんが隼人さんと一緒にいた理由についてだ。息を呑む私に対し、隼人さんは苦笑する。

「大慌ててフォローされて、謝られた。事情を知っている同級生に俺とつるんでいることについてあれこれ言われ、ついカッコつけたらしい」

 高校に入学する前、徳永さんはお父さまにシャッツィの息子である隼人さんと仲良くするように言われていたのは事実だそうだ。

 けれど実際に隼人さんに声をかけていろいろと話すうちに、隼人さんがシャッツィの社長令息とかお父さまに言われたこととか関係なく徳永さん自身が隼人さんと一緒にいて楽しかったらしい。
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