敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 この際、誰が作ったのかは問題ではない。シャッツィの商品のよさを相手に理解してもらうのが最優先だ。

 そもそもさっきの橋本さんの言い分だが、イチイは文具を、デネボラはベビー用品や乳幼児用玩具を主に取り扱っているので、会社の系統がまったく違う。

 そうなると用意する資料や見せ方は、異なってくるのが当然だ。

 けれど口にはしない。先輩に向かっていちいち反論するのも億劫だし、彼女からは契約社員だと常々見下されているのでまともに取り合ってもらえるとも思えない。

 資料を仕上げたタイミングでちょうど昼休みになったので、気持ちを切り替えようといつも持参しているお弁当を持って立ち上がった。

 今日も天気がいいから、会社のすぐそばにある公園のベンチで食べよう。玄関口へ歩を進めていると、前から見知った男女ふたりが並んで歩いてきた。

 やけに距離が近く親しげにしているのは、先ほど資料の件で文句を言ってきた橋本さんと、同じ第一営業部で営業担当の木下(きのした)秀樹(ひでき)さんだ 。

 目線を下げ、さらりと通り過ぎようとしたが、わざわざ橋本さんの方が声をかけてきた。

「沢渡さん、資料はやっと出来上がったの?」

 さっきとは打って変わってどこか甘ったるさのある声に、私は無表情で顔を上げる。ゆるくウェーブがかかったピンクブラウンの髪や、体のラインを強調する服装、しっかり施されたメイクは、彼女の女性らしさを最大限に引き出している。
< 28 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop