敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 日差しが思ったよりも暖かく、木陰になっているベンチに腰を下ろした。会社裏の公園は比較的静かで、オフィスビルが並んでいることもあり私と同じように会社の昼休みを過ごしている人がチラホラいる。

 弁当箱を開け、箸を手に取り「いただきます」と小さく呟いた。

 節約のためもあるが、自炊しているので弁当作りはその一環だった。誰かに見せびらかすためではないので、そこまで手の込んだものでもない。

 今日はゆかりご飯とメインのひじき入り鶏つくね。卵焼きと、いんげんのごま和え、彩りにミニトマトを入れている。

『沢渡さん、お弁当自分で作ってるの? すごいねー。超旨そう!』

 彼に声をかけられたときのことを思い出す。先ほどすれ違った四つ年上の木下秀樹さんとは、実は半年ほど付き合っていた。

 今ではその面影もない。なぜなら別れた原因が、彼と橋本さんの浮気だったからだ。

 浮気が発覚してもふたりはまったく悪びれもせず、逆に私は、見下されて責められる始末。怒りを通り越して、ただ呆然と現実を受け入れるのが精いっぱいだった。

 そこで我に返り、慌てて箸を進める。感傷に浸っている場合ではない。

 今日はただでさえ集中力を欠いていて仕事が思うように進んでいない。早めに昼休みを切り上げ続きに取りかからないと。

 おそらくどんなに必死で仕事をこなしても契約社員である私の実績にはならない。それでも私は与えられた仕事を極力完璧にこなすだけだ。これは家事代行業のときも変わらない。

 早めに部署に戻り、自分のデスクに戻ろうとする。その前にコーヒーでも飲もうと自販機の並ぶ休憩スペースへ向かった。
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