敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 彼が在宅のときはコーヒーを淹れてくれるのも定番になりつつあった。

 しかも、初めて淹れてもらったときにはなかったはずのコーヒー用のミルクも次には用意されていた。社長は相変わらずブラックでコーヒーを飲むので、おそらく私に気を使ってのことなのだろう。

 依頼主としても社長としても、彼は十分すぎる気遣いができる人だ。そのときチャイムが鳴り、業者が来たのだと思って玄関に向かう。

 部屋の中の火災警報器の設置やブレーカーの確認など、立ち会いで行うべき作業はあっという間に終わった。拍子抜けしながら、自分の仕事は終わったので社長に連絡を入れて帰宅しようと考える。

 その前にコーヒーくらい飲んでもばちは当たらないよね?

 なによりもうコーヒーメーカーをセットしていて、ほぼ出来上がっている。いつも通りカップを探そうとしたとき再び玄関のチャイムが鳴った。先ほどの業者がなにか確認し忘れていたのか、忘れものでもあったのか。

 そのときドアが開き、年配の男性ふたりが顔を出すのかと思ったら、現れたのは女性で面食らう。

 伯母と同年代くらいだろうか。ウェーブのかかった髪が肩の下で揺れ、きっちりメイクが施されている顔は若々しいが年相応の上品さがある。

 ネイビーのトップスに長めのジャケット、長い足を強調するかのようなパンツスタイルが嫌味なく似合っていた。

 業者だと思って出迎えたことを後悔し、内心で冷や汗をかく。仕事中ならまだしも、今は留守対応まではすべきではなかった。

 とっさに言葉が出ない私に対し、彼女はにこりと微笑む。
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