敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「では、お言葉に甘えて失礼します」

 ここで断るのはかえって失礼だ。一度キッチンに戻り、いつも使っているカップにコーヒーを淹れると、私はテーブルを挟んで彼女の前に座った。

「そんなに緊張しないでね。取って食べたりしないから」

 なんだか仕事の面接みたいだ。その証拠に、美奈子さんの顔には聞きたいことがたくさんあると書いてある。

 やはり息子が利用している家事代行業者には聞いておきたいのだろう。

「未希さんはここにはよく来ているの?」

「週に二回ほどです」

「お仕事もあるのに大変でしょう?」

 すかさず返され目を瞬かせる。ダブルワークをしていることまで知られているとは。社長はどこまで私の話をしているのだろう。

「そう、ですね。でも好きでしていることなので」

 美奈子さんはカップを一度ソーサーに戻し、軽くため息をついた。

「隼人、無理言って、未希さんに迷惑ばかりかけているんじゃないかしら」

「そ、そんなことありませんよ。息子さん、お忙しい中で私への気遣いも十分すぎるほどしてくださり、すごく感謝しているんです」

 気を使ったわけでもなく、これは本音だった。

 料理の感想をはじめ仕事ぶりをきちんと評価して口にしてくれるし、帰りに送ってもらうのも定番化しつつある。むしろ私のせいでかえって彼には負担をかけているのではと不安になるくらいだ。もちろん社長はいつも笑って否定するんだけれど。
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