敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「社長にとっては、結婚も仕事の一環みたいなものなんですね」

 つい本音が漏れてしまい、軽はずみだったかと一瞬後悔する。けれど彼は怒るどころかニヤリと口角を上げた。

「いや。仕事ならもっと落ち込んでいたさ」

 いけしゃあしゃあと答える社長にどう反応するべきなのか迷っていると、彼は少しだけ視線を落とし神妙な面持ちになった。

「周りにはいつも結婚を勧められるが、俺としては正直必要性を感じないんだ。家事もできるし、仕事中心の生活に満足しているから、あえて誰かと人生を共にする気になれない。Mitoの社長令嬢とも結婚してしばらくしたら別れるつもりだったんだ。さすがに別れてすぐには次の相手を勧められないだろうし、結婚に向いていないと言い訳もできるから」

 飾らない本音に、私は目を見開く。そして、つい社長を見つめていると、不意に彼と目が合った。

「非難するか?」

 社長が自嘲めいた笑みを浮かべながら聞いてきた。

「いいえ。そこまでして結婚しなければならないほど大変な立場にいらっしゃるんですね。相手の方が納得しているならどんな形でもいいのではないでしょうか? 結婚に対する価値観は千差万別ですから」

 気を回したわけでもなく、正直に答える。結婚したくないのなら、しなければいいと単純な私は考えてしまうが、社長や水戸さんみたいな人は、そうはいかないのだろう。

 とはいえ同情とは少し違う。それは社長の望むものではないだろう。
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