敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
「それはありませんけれど、自分のことは自分が一番よくわかっていますから」

「沢渡さんなら家事も得意だし、結婚したがる男性は多いと思うけどね」

 なにげない彼の言葉が、大きく刺さる。こんなことは言われ慣れてきたのに、社交辞令だとわかっていてもうまく受け止められない。

 なにか、なにか答えないと。必死になり極力冷静を装って笑みを浮かべる。

「難しい、ですね。私は家事をするのも誰かのために尽くすのも、仕事だと割り切らないとできませんから」

 精いっぱいの本音で答える。こう伝えて呆れられるのならそれでかまわないし、所詮はただの雑談だ。

「そろそろ帰りますね」

 話を切り上げ、カップの中身を飲み干す。今日は仕事ではないし、用件は済ませた。これ以上、ここに留まる必要もない。

 帰ろうと立ち上がると、社長も同じように立ち上がった。いつものパターンからすると、送っていくと言われるのだろう。けれど今日はまだ時間も早く、外も十分に明るい。

「沢渡さん」

 彼がなにか言う前に、断ろうと言葉を探す。

「俺と結婚してくれないか?」

 しかしまったく予想していなかった言葉が彼の口から飛び出し、耳を疑う。

 なにを言われたのか理解できず硬直している私に、彼は改めて真っすぐに向き合ってきた。

「仕事としてでかまわない。俺と結婚してほしいんだ」

 どうやら、私の聞き間違いではなかったらしい。
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