敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 念押しするような口調と真剣な表情に、冗談で言っているのではないと悟る。けれどここの流れも彼の意図もまったくわからない。

「なに……言ってるんですか?」

 驚きを通りこして、逆に淡々と返してしまう。社長は私との距離をさらに一歩詰めてきた。

「今みたいに仕事と捉えて、俺の妻になってくれないか? もちろん報酬はしっかり支払う。さっきちょうど母に君を結婚を前提に付き合っていると紹介したし、母も沢渡さんを気に入っているようだった」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 淀みなく説明されるものの、思考が追いつかない。

「結婚って……ふりではなく?」

「ああ。籍を入れてここで一緒に暮らしてほしい。あくまでも便宜上のものだから寝室は別で。ただ、家のことを今まで通りしてくれると助かる」

 次々と条件を出され、まるで仕事の交渉だ。そう、あくまでもビジネスとしての。

「仕事、として?」

 最初に言われた内容を確認するように繰り返すと、社長は小さく頷いた。

「そう。沢渡さんが別れたくなったら離婚でいい」

「いいんですか?」

 一生と言われたらそれはそれで困るが、まさかこちらに離婚の決定権まで渡されるとは思いもしなかった。

「かまわない。さっきも言ったように一度結婚して失敗したら、そのあとしばらく結婚を勧められることもないだろうし」

 淡々と話す彼にとって、結婚とはどこまでも割り切ったものにすぎないらしい。とはいえ――。
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