敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
『その答え……俺と結婚するつもりだって受け取っていいのか?』

 彼の言葉に顔がかっと熱くなる。まだ契約内容の確認をしている途中なのに。けれど私の結論は決まっていた。

 私は真向かいに座る社長の顔をしっかり見つめる。

『はい。正直、家事の経験はあっても妻の経験はないので、至らないところはあると思いますが……。どうぞよろしくお願いします』

 深々と頭を下げる私に、社長はそっと手を差し出してきた。

『お願いするのはこちら側だ。よろしく頼むよ』

 顔を上げ、困惑気味に微笑む彼の表情に少しだけ胸が高鳴る。でも入籍するとはいえ、このやりとりが証明しているようにこれは雇用関係の延長線上にある結婚だ。

 きっと今までの私ならこんな話は受けなかっただろう。そこまでお金に困っているわけでもなければ、困っている社長のためだとか献身的な意味もない。

『誰でもいいわけじゃないんだ。君だから言っている』

 ただ、あの言葉が嬉しかった。それに私も、相手が誰でも承諾したわけじゃない。仕事を通して社長と過ごし、彼とならこういった形で結婚してもいいと思えた。こういった形だからこそ、と言うべきか。

 もちろん雇用関係で成立している結婚であることは他言無用で、ひとまず伯母に社長と結婚する旨を報告する。クライアントと結婚するなど、経営者の伯母としては正直どうなのだろう。

 姪としてよりも紅のスタッフとして緊張してしまう。

「おめでとう! それにしても急ね。余計なお世話かもしれないけれど、未希が進藤さまの家のことをしていたのはあくまでも仕事だからで、結婚した以上、同じようにはいかないっていうことを相手はちゃんと理解されているの?」

 伯母の心配にドキリとしつつ私は頷く。この仕事をしていると、家事ができることだけで判断する人も少なくない。私と同じ独身のスタッフは、家事代行サービスに向かった老夫婦にお孫さんとの結婚を勧められて大変だったと前に話していた。
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