敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている～契約結婚なのに心ごと奪われました～

　今はさっさと着替えて自分の仕事をしなくては。

　セーターにジーンズという動きやすい服装に着替え、リビングに向かう。するとキッチンには隼人さんの姿がありコーヒーのいい香りが漂っていた。

「未希も飲むだろう？」

「す、すみません。私がするべきだったのに」

　さりげなく尋ねられ、急いで隼人さんのそばに行き隣に並ぶ。どうしよう。家事代行業者として頑張ろうと思った途端、さっそくやってしまった。

「隼人さん、座っていてください。あとは私がやりますから」

「かまわない。疲れただろうから座っておけ」

　疲れているのは朝から仕事をして、運転までしていた隼人さんの方なのでは？

　言い返そうとしたがこれ以上は不毛な気がして、私は話題を変える。

「ありがとうございます。今日のお夕飯、隼人さんのお好きなものを作りますよ。リクエストがあったらなんでも言ってください！」

　力強く告げ、隼人さんの返答を待つ。

「オムライス」

「え？」

　ぽつりと呟かれた言葉につい声をあげてしまった。続いてコーヒーメーカーに注がれていた彼の視線が、こちらにゆっくりと向けられる。

　なにかを訴えかけるような瞳は、まるで私の言葉を待っているみたいだ。いろいろな感情と記憶が交ざり合い、戸惑いが起こる。

「あ……母から聞いたんですか？」

　なんでもないかのように答えたものの声が震えていた。隼人さんは否定しない。彼がオムライスと言った理由に納得しつつ、今度は私が前を向き彼から目を逸らす。