敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
 小学三年生のとき、母の日に贈るものを迷っていたら、ちょうど子ども向けの料理番組で当時の私と同い年くらいの女の子がオムライスを作っているのを見て閃いた。

 それまで母がいないときに、トーストやおにぎりなど簡単な料理はしたことがあるが、母の分までなにかを用意したことはない。料理が好きになっていた私は、お小遣いを握りしめ、近所のスーパーに材料を買いに走った。

 チキンライスは鶏ではなくハムを使い、炒めずにご飯に混ぜる形で、比較的簡単にできた。卵は少し破れたけれど我ながら上手に仕上がり、あとは母が帰ってくるのを待つばかりだ。

 テレビで見たその子もお母さんに作って喜ばれていた。

 母の反応を想像するとワクワクして、帰ってくるのがいつも以上に楽しみになる。

「でも、帰ってきた母には余計なことをして!ってすごく怒られたんです」

 苦笑しつつ極力明るく説明した。

『どうしてこんな余計なことをしたの! お母さん、頼んでないわよ。キッチンを汚して、お小遣いも無駄にして』

 すごい剣幕で叱られ、私は一瞬で涙目になった。

『ごめん……なさ』

『本当にろくなことしないんだから。今日はお母さん、疲れているから夕飯はいらないわ。それ、未希が自分で食べなさい』

 さっさと自室に入っていった母を尻目に、私はひとりで食卓につき、冷めたオムライスを食べた。ちょっとケチャップが多かったが、味は悪くない。味見をしたときは美味しいと思ったのに、どう頑張ってもそのときは美味しいと思えなかった。
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