敏腕社長は雇われ妻を愛しすぎている~契約結婚なのに心ごと奪われました~
苦しくて切ない。その感情とあの味が、いまだにずっと残っている。おかげで、あれからオムライスを作ることだけはしていない。幸い仕事でリクエストされたこともなかった。
『頼んでもいないのに勝手に料理をしてね……。無駄なことばっかり。独りよがりなんですよ、あの子は』
母は、世間話のようにあのときの話をよく口にする。そのたびに私は居た堪れない気持ちになるが、事実だからなにも言えないでいた。
「勝手にキッチンを使って、必死になって……。今思うと母の言う通り、完全に独りよがりだったんですよね」
自分の気持ちを奮い立たせるためにも隼人さんに笑顔を向けた。しかし彼はこちらをじっと見つめたままだ。
次の瞬間、彼の手がすっと頭に伸びてきて優しく撫でられる。思いがけない行動に私は目を丸くした。
「なん、ですか?」
「そのときの未希に会ったら、俺は喜んで食べていたよ」
からかうでも同情するでもなく、真面目な顔で言われ、ますます私の心の中は乱れる。適当に聞き流してくれてかまわない。子どもの失敗として笑ってくれたらそれでいい。
けれど、伝わってくる手のひらの感触や温もりに、なんだか目の奥が熱くなる。
「それは……ありがとうございます」
かすれた声でそう答えるのが精いっぱいだった。だめだ。隼人さんに気を使わせるわけにはいかない。
『頼んでもいないのに勝手に料理をしてね……。無駄なことばっかり。独りよがりなんですよ、あの子は』
母は、世間話のようにあのときの話をよく口にする。そのたびに私は居た堪れない気持ちになるが、事実だからなにも言えないでいた。
「勝手にキッチンを使って、必死になって……。今思うと母の言う通り、完全に独りよがりだったんですよね」
自分の気持ちを奮い立たせるためにも隼人さんに笑顔を向けた。しかし彼はこちらをじっと見つめたままだ。
次の瞬間、彼の手がすっと頭に伸びてきて優しく撫でられる。思いがけない行動に私は目を丸くした。
「なん、ですか?」
「そのときの未希に会ったら、俺は喜んで食べていたよ」
からかうでも同情するでもなく、真面目な顔で言われ、ますます私の心の中は乱れる。適当に聞き流してくれてかまわない。子どもの失敗として笑ってくれたらそれでいい。
けれど、伝わってくる手のひらの感触や温もりに、なんだか目の奥が熱くなる。
「それは……ありがとうございます」
かすれた声でそう答えるのが精いっぱいだった。だめだ。隼人さんに気を使わせるわけにはいかない。