千歳の時を越えたハル様へ、今日もあなたを愛しています。
海を越えた目覚め




「こりゃあ今夜は荒れるぞ」



ガタガタガタ。

びゅんびゅんと吹き荒れる雨風が和造りの戸を叩き、そんなものを眺めた従業員ひとりが怪訝な顔をさせながらつぶやいた。


まだ17時を過ぎたところだというのに、空は真っ暗。


台風警報もなく急なことだったため、何組かのお客様が急遽もう1泊していくこととなり。

天気同様、館内も慌ただしくなりそうだった。



「土砂災害警戒レベルですって」


「やあねえ。上は山、下は海。逃げようがないんだからここは」



台風といえば、夏が始まる前と終わった頃にやって来るのが一般的。

しかし今はまだ早すぎる。


梅雨にすら突入していない時期のはずが、台風の目は待ち遠しくて一足早くやって来てしまったのだろうか。


ため息を連鎖させる年配の仲居たち。


遠目から見るたびに、私は必要ないんじゃないかと思う。

むしろこのまま消えてしまいたい。



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