千歳の時を越えたハル様へ、今日もあなたを愛しています。
もちろんハル様はネイビー色の作務衣をまとい、どういうわけか視界に入るだけで女性たちの目は追いかける。
「私もたぶん…そっちのほうが似合うのに」
珊瑚色をした無地の着物。
ふわりとひとつに結いあげた髪は、染めたことなど1度もない。
地味な顔立ちだから着させられているのではなく、単純に私の立場というだけ。
ほかに着物を着用している従業員といえば、女将さんと透子さんくらいだ。
そして婚約者である支配人といえば、唯一のスーツ姿でいつも宿に入ってくる。
「あっ、ハル君。やっと見つけたよ」
「お疲れ様ハルさん。さっきはありがとうね」
今も宿内のどこかしろから聞こえてくる名前。
自分のことのように嬉しくなるのは、心から安心した部分があるから。
彼の居場所を作ることができたと。
皆してハル君、ハルさんと呼ぶなか、私はこっそりと小声で「ハル様」と呼んではくすぐったい。