千歳の時を越えたハル様へ、今日もあなたを愛しています。
「今川様へのご案内、終わりました。今川様は19時半にご夕食希望です」
だとしても立場上、そんなことしてはいけないし、できるはずがない。
いつも考えるだけ。
考えるだけで1日が終わってしまう。
ようやく最後のお客様を案内し終えて報告を済ませた私に、ひとりの女性ベテランスタッフは顔をしかめた。
「19時半?できれば19時でお願いしたはずよ」
「言ってはみたのですが…、今川様にとっては19時半も早いくらいだと」
広々としたロビーは、あえてほんのりと証明を薄暗くさせたことで中庭の日本庭園を照らすライトアップが際立つ仕様。
この庭園は毎年のコンテストでグランプリを受賞しており、この温泉宿───華月苑(かげつえん)に訪れるお客様の目当ての先でもあった。
玄関は、宿の顔。
この台風並みの荒れた天候がそんな華月苑の顔までをも拐っていくんじゃないかと、皆してピリピリとさせていた。