千歳の時を越えたハル様へ、今日もあなたを愛しています。
「もし…ハル様がすべてを思い出してしまったら」
黒という色は滅多に使わない。
この森林に囲まれた風車小屋も、私は黒色だけは使わないようにと決めていた。
しかし今、手に取った色鉛筆は黒。
「そのときは……元いた場所に、戻られてしまうのですか」
あなたが居なくなったあとの生活を考えることが、おそろしい。
こんなにも穏やかな気持ちでゆっくり絵を描くことができるだろうかと、おそろしい。
数え忘れていた年月を思い出してしまうくらいには、私の世界は再び黒で染まってしまう。
「そうだったなら…とっくに俺は戻っているよ」
「…え…?」
「俺はきっと、一咲の言葉で右にも左にも動く男なんだ」
それは、私が「行くな」と言ったなら。
「行かないでください」と引き留めたならば、ここにずっと居てくれると…?