千歳の時を越えたハル様へ、今日もあなたを愛しています。
声を越えた深愛
「一咲っ、菊の間に水菓子はもう持っていったの?」
「いえ、これから桜の間に焼物を…」
「それあとでいいから!先に菊の間に行って!」
「は、はい…」
夏といえば海、海といえば夏。
華月苑の客室から一望できる海は、雑誌の表紙にも切り抜かれる絶景だった。
お盆に突入した今日、予約は1ヶ月前からいっぱい。
私だけがこんなに忙しいんじゃないかと錯覚しそうになるけれど、どこの旅館も今の時間帯は従業員たちが走り回っていることだ。
「わ~!メロンだ!フルーツいっぱいだよママ!」
「ね~、カラフルで可愛いねえ」
この瞬間だけはすごく、仕事に対してやりがいを感じられる。
慌ただしさを抜けた先にある楽園。
この笑顔のために私は毎日を働いていると言っても過言ではなかった。