千歳の時を越えたハル様へ、今日もあなたを愛しています。
「こっちに来たらいいのに」
「っ!…動物は、すこし怖い…ので」
「なら、野生動物に対してもそれくらい警戒するべきだと思うな」
屯(たむろ)する従業員たちの集いから抜けて、私のそば。
ここで逃げてしまったらもっと感じが悪くなってしまうと、実際はタイミングを逃したことに対する言い訳にした。
「一咲」
みんながいる場所ではいつもそうは呼ばない。
ただ、今は全員の視線が子猫に一直線だから、端っこの私には誰も気づきもしないのだ。
目すら合わせられなくなってしまった私に、きっと彼は変わらず見つめてくれているんだろう。
ハル、様───。
パクパクと、音がうまく乗らない口だけで名前を型どった。
「…うん」
そしてなぜか聞こえているかのように、そんな返事。
手に触れたい、頬に触れたい、唇に触れたい───たったの「うん」に込められていた欲望。