千歳の時を越えたハル様へ、今日もあなたを愛しています。
「ここからバスで3駅なので、そう遠くはなないと思います」
「……ばす、」
「あ、大きくて長い車のことです。たくさんの人が利用するので、交通機関のひとつなんです」
「…なるほど。乗合自動車のようなものかな」
「のりあい自動車…」
逆に聞いたことがない。
お互いが知らない言語で理解を深めてゆく会話は、私も新鮮ではあった。
「路面を走る蒸気機関車、と言えば伝わる?」
「あっ、なるほど…です」
ちなみに蒸気機関車はこちらでは電車と言います───またそのとき説明するための話題のひとつにしようと、心のなかに留めた。
とりあえずたくさんの乗客を乗せることができる交通機関、とだけお互いに理解できれば。
昔のことは知っていて、近代のことは無知。
そこだけの記憶が抜けている、ような…。
言語は元から覚えていたようで、とくに会話に支障はなく。
これも記憶喪失の一種なのかなと、楽観的に考えることが正しい気もしてきた。