千歳の時を越えたハル様へ、今日もあなたを愛しています。
ビーカーやフラスコ、顕微鏡まで。
生活感がまったく感じられない部屋に、どうやって生活しているんだろう?と、そういう意味で心配にもなってくる。
「どちらにしろ年金暮らしのクソジジイだ。ひとりのほうがラクだったりするぞい」
「…では、研究は趣味で?」
「こんな老いぼれを買いかぶる教授もそこそこおってな。おぬしらのように新しい顔はワシにとっても新鮮での、つい上げてしもうた」
腰はそこまで曲がっていない。
お爺様より10歳以上は年下と思われる風貌のツクモさん。
正しくは“九十九”と書いてツクモと読むらしく、私は脳内にふりがなセットで覚えた。
「ほう?記憶喪失とな」
「…いや、聞きたいところはそこではなく」
「えっ…」
驚いたのは私だった。
いざ診察をしてもらおうと、私が軽く説明したあと。
否定したのは本人であるハル様だったから。