エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
院長室を後にし、二人でエレベーターに乗り込むと、扉が閉まった途端にぎゅっと強く抱きしめられた。
「優茉、ありがとう」
「いいえ、私は何も。でも...よかったです、本当に」
「ああ、全部優茉のおかげだよ」
まさか、院長に謝罪をされるとは思ってもいなかった。それに、北条さんが私の話をされていた事も驚いたけれど、彼女のおかげもあって受け入れてもらえた気がする。
そして、院長と柊哉さんの距離も前より少し近づいたように見えた。
院長はきっと、柊哉さんのためにも必死にお仕事をされて来たんだと思う。幼い頃にそれを理解する事は難しいけれど、ようやくそれが彼にも伝わったようだった。
良かった、二人の関係が壊れなくて。本当に良かった。
晴れやかな気分でマンションへ帰り、すぐに夕食の準備に取りかかる。昨日ある程度下ごしらえをしておいたので、あとは少し調理をするだけで完成。
でも...帰って来てからずっと、柊哉さんが離れてくれない。
もちろん私もくっついていたいけれど、お肉を焼いている間もお皿を並べている時も、何故かずっと側で頭を撫でたりハグしていたり...。
今日はどうしたんだろう...?私もだけど、柊哉さんも安心したのかな?
後ろからハグされたり手伝ってくれたりしながら片付けを終えて、先ほどお湯を張るボタンを押しておいたので、柊哉さんにお風呂を勧める。
昨日は当直だったし、きっとお疲れだから早く休んだ方がいいと思ったんだけど...
「優茉が先に入って。疲れただろう?」
「いえ、柊哉さんの方が当直だったんですから。ゆっくり温まって来てください。今日は早く休みましょう?」
何度かこの押し問答を繰り返してから、「じゃあ」と立ち上がったので、先に入ってくれるのかと思いきや何故かまた後ろからハグされる。
「...柊哉さん?」
お腹に巻きついていた右手が伸びて来て頬に添えられ、くっと後ろを向かされると目の前に彼の顔があり、次の瞬間には唇が重なっていた。
啄むようなキスを繰り返したあと耳元で「じゃあ、一緒に入る?」と低い声で囁く。
「っ、え⁈」
片方の口角を上げた少し意地悪な笑顔。
この顔は... 前にも見た事がある。冗談では、なさそう...。
「二人でも入れるよ?湯船」
た、たしかに二人で入っても問題ないくらい広いけど...そういう事では...
「あ、あの... えっと...」
本当の恋人になったのだから、柊哉さんにとってはお風呂に一緒に入るくらい普通の事なのかもしれないけど...でもいきなりお風呂なんて、私にはハードルが高すぎる...。
まだキスにも慣れていなくて、すごく恥ずかしいのに、お風呂なんて...
でも、断るのは失礼...?どうしよう、なんて言ったらいいの...?
私が言い淀んでいると顔を覗き込まれ、今度はニコっと満面の笑みを向けられる。
え...?なんか、すごく嬉しそう...私、まだ答えていないんだけど...
急にそんな笑顔を向けられ、訳が分からず戸惑っていると「ふっ、本気で悩んでくれたみたいで嬉しい。でも優茉の顔に書いてあるよ、どうしようって」そう言って、ははっと笑いながら私から離れる柊哉さん。
あっけに取られている私の背中を押して「今日は諦めるよ。だから先に入っておいで」とそのままバスルームまで押され、扉を閉められた。
結局、どっちだったの...? 冗談?本気?
恋愛経験値が低すぎる私には難しすぎる...。