エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
柊哉side

 良かった...指輪は優茉の指にピッタリだった。
 女性に指輪を贈った経験などなくサイズも全く分からなかったので、実は眠っている間に測っておいた事は出来れば黙っておきたい。

 何度も角度を変えながら、嬉しそうに指輪を見つめる彼女。
 俺を想って選んでくれたプレゼントも、なぜか恥ずかしそうに饒舌になる優茉も、プロポーズに綺麗な涙を流して頷いてくれた姿も...愛おしくて堪らない。

 身体の奥から込み上げてくるものを、とうとう我慢出来なくなりそうで口から言葉が溢れかけた時、紙袋が音を立てて落ちた。

 ...まるで、冷静になれと言われているようなタイミングだった。たしかにまだ、優茉のケーキも食べていないし、今じゃないよな...。

 「柊哉さん、本当にありがとうございます。大切にします」

 そういう彼女をもう一度抱きしめ軽くキスをし、なんとかこれで欲求を抑えようとしていた時「あっ」と優茉が呟く。

 「どうした?」

 「...ケーキ、食べませんか?」

 「そうだな、いただくよ」

 俺から離れてキッチンへ向かう優茉を眺めていると、不意にテーブルに置いてあった俺のスマホが振動した。

 嫌な予感がしつつも、病院からだとしたら無視するわけにもいかない。
 心の中で溜め息を吐きながら手に取ると、画面には予想外な名前が表示されている。

 心配そうにこちらを見ている優茉に「ごめん、何の用か分からないが秘書の林さんからだ」とだけ告げて画面をタップする。
 すると、普段はほとんど感情を見せない彼らしからぬ慌てた声が耳に飛び込んできた。

 「柊哉さん、今どちらですか?院長が、会食先の料亭で倒れられて、今そちらの病院に運ばれたところです」

 「え?院長が倒れた...?それで?容体は?」

 俺の声が聞こえていたようで驚いた顔でこちらを見た後、優茉は慌てて何処かへ行ってしまう。

 「まだわかりません。もう少しで病院に着くはずです」

 「わかりました。すぐに向かいます」

 それだけ伝えて電話を切ると優茉が戻って来て、その手には俺のコートと車のキーが握られている...。

 「柊哉さん、早く行ってください!」

 「優茉...」

 やっと家に帰ってこられたのに、しかもクリスマスだと言うのに...

 「私は大丈夫ですから、すぐに病院に!」

 「ごめん、行ってくる。本当に申し訳ないが今夜中に戻れるか分からない」

 「わかっています。落ち着いたら連絡ください」

 「本当にごめん。必ず連絡する」

 「はい、お気をつけて」

 優茉には本当に申し訳ないが、院長の事も気になるので急いで病院まで車を走らせた。
 

 救急に運ばれただろうと思い、そこに駆けつけると廊下の椅子に林さんが座っていた。

 「柊哉さん...。ご自宅に帰られていたんですね。慌てて連絡してしまい、すみません」

 「いえ、父はまだ中に?」

 「はい。まだ出て来ていませんので、状況はわかりません」

 私服のままだが、パスは持っているので中へと入るとすぐに俺に気づいて看護師が駆け寄ってきた。

 「香月先生!院長はあちらですよ」

 そう言う彼女の顔には笑みがあり、大したことはなかったのだとわかった。

 案内されカーテンを開けると、点滴に繋がれた父さんがベッドで眠っていて、処置してくれた救命医の先生によるとただの過労だろうということだった。

 大事にならなかったのは良かったが、俺に自己管理も出来ていないのかと言っておいて自分は過労で倒れるとは......。

 とにかく病棟にあげ一日様子を見ようという事になったので、個室へと移しとりあえず目が覚めるのを待つ事にした。

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