エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
柊哉side
心配しているであろう優茉に連絡を入れ、帰りは遅くなりそうだともう一度謝る。
気にしないで下さいと言ってくれる優茉は、なんて理解があるのだろう。せっかく作ってくれたケーキも食べられなかったというのに...。
父さんが目を覚ますまでここで仕事をしていようと、タブレットを取りに廊下へ出ると林さんが立っていた。
「ただの過労だそうなので、心配いりません。連絡ありがとうございました」
軽く頭を下げて通り過ぎようとした俺に、「柊哉さん!申し訳ありませんでした」と林さんが深々と頭を下げる。
「あの...私、院長の指示とはいえ、ご婚約者である宮野優茉さんを、監視するような真似をしてしまいました」
...なるほど、その事か。
「いえ、院長の指示なので仕方ありません。それに、彼女はその事に気がついていましたから」
「えっ?気づかれていたんですか?」
「はい。彼女はクラークとして、常に周りに目を向けていますから。挙動不審なあなたの行動も、勘のいい彼女は気がついていましたよ。おそらく自分を見ているのだと」
「そうだったんですか...。本当にすみませんでした。しかし、少しの間宮野さんの仕事ぶりを拝見し、彼女は本当に仕事熱心で周りの方達にも信頼されている事がわかりましたので、そのままを院長にもお伝えさせて頂きました」
...そうか、父さんがすんなり優茉を受け入れたのは林さんの言葉もあったという事か。
「そうですか...。やり方はともかく、結果的にはこちらの味方になって頂いたようなので、ありがとうございました」
その後林さんには帰宅してもらい、個室のソファで仕事をしていた。
それから父さんが目を覚ましたのは、およそ二時間ほど経って日付が変わる頃だった。
「目が覚めましたか?」
父さんはゆっくりと辺りを見渡したあとで俺の方を見る。
「...柊哉か。どうやらお前にも迷惑をかけたようだな」
「過労だそうですよ。林さんの話だと、帰国してからほとんど家に帰っていなかったそうですね」
「...情けないな。私ももう若くないという事だな」
「当たり前です。あなたが倒れたら、色んな人に迷惑がかかる。お分かりですよね?
それに...、まだあなたには元気でいてもらわないと困ります」
「柊哉...。悪かったな、もう家に帰っていたんだろう?」
「ええ、おかげで優茉のケーキを食べ損ねました」
「ふっ、そうか。それは宮野さんにも悪い事をしたな。代わりに謝っておいてくれ。
それから、医者の仕事は決まった休みも取れなければ急な呼び出しも多い。理解のあるように見えても、内心では必ずしもそうではない。お前の母さんもそうだった。宮野さんにもきちんと言葉で伝えるんだぞ、躊躇っていてはいつか後悔する」
...父さんの口から母さんの話を聞いたのは、亡くなって以来初めてだ。
少し寂しそうにも見える表情でこちらを一瞥した後、目を閉じて黙ってしまった。
身体が弱ると心も弱るという事はよくあるが、この人もそうだったのだろうか。
母さんが亡くなってから、父さんが体調を崩した時そばにいてくれる人はいなかったのかもしれない。
こんな表情を見たのはいつ振りだろう。本当は、母さんの分まで俺がそばにいてあげないといけなかったんだよな...
「...わかりました。では、俺は一度家に戻ります。明日、院長が診察予定だった患者さんは俺が対応します」
「ああ、すまないがお前に頼む」
病室を出てから、優茉はもう寝ているだろうしやる事はあるのでこのまま病院に残ろうかとも思ったが、無性に彼女の顔が見たくなった。
もう日付は変わってしまったが、優茉が用意してくれたクリスマスは俺にある記憶を蘇らせてくれた。
リビングで料理を並べながら、楽しそうに笑顔で話す母と父の姿を。
母さんが生きていた時は、クリスマスには必ず俺と父さんの好物とケーキを手作りしてくれて、父さんもその日は仕事を抜けてでも一緒に食事をしていた。
母さんが亡くなってからは、クリスマスのお祝いなど無縁になり、そんな記憶は頭の奥底にしまわれていた。
だけど、今日リビングに入った時、一気にその記憶が頭を駆け抜けた。家でクリスマスのお祝いをするなんて、おそらく母さんが生きていた時以来だ。
優茉のおかげで、忘れていた家族の幸せだった記憶のかけらを取り戻せた気がした。
心配しているであろう優茉に連絡を入れ、帰りは遅くなりそうだともう一度謝る。
気にしないで下さいと言ってくれる優茉は、なんて理解があるのだろう。せっかく作ってくれたケーキも食べられなかったというのに...。
父さんが目を覚ますまでここで仕事をしていようと、タブレットを取りに廊下へ出ると林さんが立っていた。
「ただの過労だそうなので、心配いりません。連絡ありがとうございました」
軽く頭を下げて通り過ぎようとした俺に、「柊哉さん!申し訳ありませんでした」と林さんが深々と頭を下げる。
「あの...私、院長の指示とはいえ、ご婚約者である宮野優茉さんを、監視するような真似をしてしまいました」
...なるほど、その事か。
「いえ、院長の指示なので仕方ありません。それに、彼女はその事に気がついていましたから」
「えっ?気づかれていたんですか?」
「はい。彼女はクラークとして、常に周りに目を向けていますから。挙動不審なあなたの行動も、勘のいい彼女は気がついていましたよ。おそらく自分を見ているのだと」
「そうだったんですか...。本当にすみませんでした。しかし、少しの間宮野さんの仕事ぶりを拝見し、彼女は本当に仕事熱心で周りの方達にも信頼されている事がわかりましたので、そのままを院長にもお伝えさせて頂きました」
...そうか、父さんがすんなり優茉を受け入れたのは林さんの言葉もあったという事か。
「そうですか...。やり方はともかく、結果的にはこちらの味方になって頂いたようなので、ありがとうございました」
その後林さんには帰宅してもらい、個室のソファで仕事をしていた。
それから父さんが目を覚ましたのは、およそ二時間ほど経って日付が変わる頃だった。
「目が覚めましたか?」
父さんはゆっくりと辺りを見渡したあとで俺の方を見る。
「...柊哉か。どうやらお前にも迷惑をかけたようだな」
「過労だそうですよ。林さんの話だと、帰国してからほとんど家に帰っていなかったそうですね」
「...情けないな。私ももう若くないという事だな」
「当たり前です。あなたが倒れたら、色んな人に迷惑がかかる。お分かりですよね?
それに...、まだあなたには元気でいてもらわないと困ります」
「柊哉...。悪かったな、もう家に帰っていたんだろう?」
「ええ、おかげで優茉のケーキを食べ損ねました」
「ふっ、そうか。それは宮野さんにも悪い事をしたな。代わりに謝っておいてくれ。
それから、医者の仕事は決まった休みも取れなければ急な呼び出しも多い。理解のあるように見えても、内心では必ずしもそうではない。お前の母さんもそうだった。宮野さんにもきちんと言葉で伝えるんだぞ、躊躇っていてはいつか後悔する」
...父さんの口から母さんの話を聞いたのは、亡くなって以来初めてだ。
少し寂しそうにも見える表情でこちらを一瞥した後、目を閉じて黙ってしまった。
身体が弱ると心も弱るという事はよくあるが、この人もそうだったのだろうか。
母さんが亡くなってから、父さんが体調を崩した時そばにいてくれる人はいなかったのかもしれない。
こんな表情を見たのはいつ振りだろう。本当は、母さんの分まで俺がそばにいてあげないといけなかったんだよな...
「...わかりました。では、俺は一度家に戻ります。明日、院長が診察予定だった患者さんは俺が対応します」
「ああ、すまないがお前に頼む」
病室を出てから、優茉はもう寝ているだろうしやる事はあるのでこのまま病院に残ろうかとも思ったが、無性に彼女の顔が見たくなった。
もう日付は変わってしまったが、優茉が用意してくれたクリスマスは俺にある記憶を蘇らせてくれた。
リビングで料理を並べながら、楽しそうに笑顔で話す母と父の姿を。
母さんが生きていた時は、クリスマスには必ず俺と父さんの好物とケーキを手作りしてくれて、父さんもその日は仕事を抜けてでも一緒に食事をしていた。
母さんが亡くなってからは、クリスマスのお祝いなど無縁になり、そんな記憶は頭の奥底にしまわれていた。
だけど、今日リビングに入った時、一気にその記憶が頭を駆け抜けた。家でクリスマスのお祝いをするなんて、おそらく母さんが生きていた時以来だ。
優茉のおかげで、忘れていた家族の幸せだった記憶のかけらを取り戻せた気がした。