エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
柊哉side

 ビールを頼もうとしたが、もしかしたら優茉を迎えに行く事になるかもしれないと思い、一応ノンアルコールを頼み先に飲んでいると、翔と伊織が揃って入って来るのが見えた。

 「おう、お疲れ!」

 「久しぶり!柊哉」

 すぐに俺に気づきカウンターまで来て、二人もビールを頼んで座った。

 「お疲れ、早かったな」

 「ああ、もう年内の締めは終わってるからな。今日はほぼ全員定時上がりだよ」

 「俺も先週までは超忙しくてさ、寝る暇もなかったけど、なんとか落ち着いたよ」

 約三ヶ月ぶりの再会なので、それぞれの近況や仕事の話を一通りしながら料理をつまむ。

 優茉の事が気になり、時々メッセージが来ていないか確認していた俺に「柊哉、さっきからスマホ気にしてるけど何かあるの? 仕事?」と伊織が覗き込んでくる。

 「いや、よっぽどの事がない限り今日は呼ばれないよ」

 「じゃあ、彼女か?」

 ニヤリとしながら俺の肩に手を置く翔。

 「えっ!そうなの?というか、この前言ってた同棲の話はどうなったの?続き聞いてないんだけど!」

 「ああ、なんとか婚約まで辿り着いたよ」

 「マジかよ!」「本当に⁈」とほとんど同時に驚きの声を上げる二人。

 そしてここまでの経緯をかいつまんで話すと、二人はまた同時に声を上げた。

 「「加賀美の令嬢ヤバ....」」

 「彼女可哀想...でも、彼女も柊哉の事大好きなんだね。本当に良かったよ、柊哉おめでとう!」

 「マジでお前よくやったな!おめでとう!」

 二人に祝福され、照れ隠しにグラスを口につけた。

 「まさか柊哉が一番に結婚するとはなぁ。それにしても、柊哉のために自己犠牲を払っちゃうような彼女、見てみたいなぁ」とニヤニヤしながら顔を近づけてくる伊織を制しながら、再びスマホを確認するがメッセージは来ていない。

 「で?これから彼女迎えに行くのか?」

 「いや、わからない。病院の近くで先輩とご飯食べるだけだから大丈夫だとは言われてる」

 「ふーん?だから今日俺らを呼んだわけか。帰っても彼女いないから」

 「ふっ、まぁな」

 「じゃあやっぱり迎えに行こうよ!お酒飲んで酔っちゃって誰かにナンパされちゃうかもよ?」と今度は悪い顔で俺を焚き付けようとする伊織。

 「やめとけ伊織。これから酔った彼女を介抱して、あつーい夜を過ごすんだろうからな?」

 冷やかす翔の言葉に思わず、口に運ぼうとしていたグラスを持った手が止まった。
 そんな俺をみて勘の良い伊織がまた騒ぎだす。

 「まさか柊哉...まだ手出してないとか言わないよね?」

 「ははっ、んなわけねぇだろ?こんだけ一緒に暮らしててまだ手出してないなんてこと...ってマジかよ?」

 反論しない俺に二人も動きを止める。

 「柊哉まじ?だって数ヶ月一緒に住んでて、もう婚約者なんでしょ?」

 「......だからだよ。タイミングっていうか、彼女にその気が無さそうだから、わかんないんだよ」

 もう観念して話し出した俺を、驚愕という顔で見ている二人。

 「マジかよ...すげぇな、お前...」

 「いや偉いよ柊哉!それだけ彼女が大切なんだね。でも、なかなか女の子からそういうのは言いづらいんじゃない?なんかアピールとかサインみたいのはなかったの?」

 アピール...? サイン?

 「彼女だって大人の女なんだから、全くない事はないだろ?待ってんじゃねぇの?お前から来てくれんのを」

 「まぁ、待ってあげるのも優しさだけどさ、あんまり待たせると彼女も心配になっちゃうかもね?私の事欲しくないのかな?って」

 「えっ...? そう、なのか?」

 「はぁ、柊哉は本当に女心ってものに疎いんだから」

 「だったら今日をそのタイミングにすればいい。酔って帰ってきたところを—」

 「何言ってんの翔!絶対だめだよ!ここまで待ったんだから、ちゃんと素面のときに優しーく抱いてあげないと!」

 「でもそのタイミングはいつ来るんだよ?このままだとずっと来ないんじゃねぇの?」

 「それは柊哉と彼女次第だけど...酔った勢いはダメなの!」

 二人の言い合いを聞きながらグラスを煽り飲み干すと、俺のスマホが着信を知らせる。

 「あっ!彼女じゃない?やっぱりお迎え必要なんだよ!」

 「だからってお前が行っても邪魔だろ」

 「邪魔しないよ!ちょこっと彼女の事みて帰るだけ!」

 「やめとけって」

 また言い合いを始めた二人から離れて、静かな所で電話にでた。
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