エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
週末が明けた月曜日。今日は少しだけ寒さが和らいで、太陽の暖かさを感じられる。
いつもの様に出勤しパソコンを立ち上げると、神妙な面持ちの風見さんが近づいてきてハッとした。
そうだった、すっかり忘れていた...。
「あの、宮野さん...」
「あ、あの、金曜日はすみませんでした」
「いや、気にしないで。あのさ...宮野さんって、香月先生の、彼女なの...?」
「あ、ええっと、その...」
「違うわよ、風見くん」
いつの間にかすぐ後ろに来ていた天宮さんがそう言うと、えっ!と笑顔になった風見さんだったけど...
「彼女じゃなくて、婚約者よ!」
その言葉に、今度はがっくりという感じで項垂れている...。
「だから遅いって言ったでしょ?これで諦めがついたんじゃない?」
「はい...。香月先生相手じゃ、戦闘意欲も湧きません...」
「ふふっ、わかったらもう少し近くに目を向けるべきね。案外すぐ近くに幸せが転がっているかもよ?」
「えっ!それどういう意味ですか?近くって?」
二人の会話を聞きながらも、さっきの会話が聞かれていないかと周りをキョロキョロと確認すると、こちらに向けられている鋭い視線と目が合う。
え? 柊哉さん...。いつから、ナースステーションにいたんだろう...?
憮然とした顔でじっと私を見つめているので、何もないですよという意味を込めて首を振ってみる。
すると肩をすくめ軽く首を捻って、どうだか?と言うようなポーズをしてから奥へと入って行った。
そんな怖い目をしなくても、何もないのに...。
今日はそれから彼の姿を見かけることは無く、家に帰ってからもなんとなく気になって気分が晴れない。
私から謝るべきなのかな?もう風見さんとは話さない方がいいの?でも仕事上それは無理だし...。
たしかに風見さんは少し私に好意を持ってくれていたのかもしれないけれど、私は柊哉さんの事しか目に入っていないのに...。
ぼんやりと考えながらハンバーグを焼いていると、不意に後ろから手が伸びてきた。
「ひゃっ」
驚いて振り返ると、コートにカバンを持ったままの彼の姿が。
「焦げてるよ」とフライパンの火を止めてくれている。
「あっ...すみません」
やっちゃった...。ぼんやりしすぎて、焦がしている事にも気がついていなかった。
「大丈夫?火傷とかしてない?」
「は、はい。大丈夫、です」
「よかった」とぎゅっと抱きしめてくれたあと、すぐに離れて自室へ行ってしまった。
ハンバーグはお弁当用にもと思い多めに作っていたので、今度は気をつけて焼き上げなんとか夕食が完成し、出来上がるまでソファでタブレットを見ていた彼に声をかける。
「優茉、どこか調子悪い?ぼんやりしていたみたいだったけど」
首筋に手を当てたあと、手首を掴んで脈をみられる。
「いえ、大丈夫です。ちょっと、考え事をしていてぼんやりしてしまったみたいで...」
「考え事?仕事で何かあった?」
「い、いえ、そういうわけでは...。あっ、これ、お砂糖入れ忘れたかも...」
ほうれん草の胡麻和えを口に入れて、甘さがないことに気づいた...。
「これはこれで美味しいから問題ないけど、珍しいね。優茉が味付け忘れたりフライパン焦がすなんて」
顔を覗き込まれて、なんとなく目を合わせられずそのまま食事を続けた。