エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
柊哉side

 自室に入り、遅い時間なのは承知で伊織に電話をかける。
 今は主に民事事件を扱う弁護士である彼に、何か当時のことが分かるものがないかと確認したかった。

 「もしもし、柊哉?こんな時間にどうしたの?」

 スリーコールで出た伊織はまだ眠ってはいなかったよう。

 「遅い時間に悪い。ちょっと...伊織に頼みたい事があるんだ」

 「...どうしたの?何かあった?」

 俺の声で、おそらく雰囲気を察してくれたのだろう。彼のトーンも先程よりぐっと低くなる。

 「実は...、俺の母さんの事故の事を、詳しく知りたいんだ。何でも良い、当時の状況とか、被害者の事とか何か—」

 「待ってよ柊哉!どうしたの?何があったか教えてよ!急にお母さんの事故の事を聞くなんて...」

 不審がるのも当然だろう。伊織と翔は当時の俺の状況も知っているし、かなり気を遣ってくれていた。そして俺から母さんの話をする事も、多分初めてだ。

 「...今は、詳しくは話せない。ただ、どうしても、あの時の事を詳しく知りたいんだ。なるべく早く、頼めないか?」

 「...まぁ、調べられなくはないし、柊哉は遺族だから知る権利はあると思う。
 ...じゃあ、今は何も聞かないけど、その代わり話せる時が来たらちゃんと教えてよ?」

 「ありがとう。何か分かったらすぐに教えて欲しい」

 「...はぁ、俺もそれなりに忙しいんだからね?それにかなり前の事だし、どこまで調べられるかは分からないから、あんまり期待しないでよ? じゃあ、おやすみ!」

 伊織はいつもの口調に戻り、俺を気遣うように明るくそう言って電話を切った。
 あとはもう一人、当時の状況を知っているであろう人物に話を聞きに行こう。


 寝室に戻り優茉の穏やかな寝顔を見ると、胸が張り裂けそうになる。

 もしも...、もしもこの仮説が事実だったとしたら...

 俺はもう、彼女のそばにいる事は......

 優茉の髪を撫で寝顔を見つめていると、気がつけば窓の外は朝日が昇り始めていた。



 翌朝、いつも通りを装いながら優茉の作ってくれた朝食を食べ、いつもより早く病院へ向かい、着替えもせずそのまま院長室へと足を運ぶ。ノックをして入ると、すでに仕事をしている父さんの姿があった。

 「柊哉か。どうした?こんな朝早くから」

 「...父さんに、聞きたいことがある」

 書類に向けていた視線を上げ、俺の雰囲気を察したのか、あからさまに怪訝な顔をする。

 「...何の事だ?」

 「母さんの、事故のこと。知っている限り教えて欲しい」

 「...急に、なんだ?なぜ今母さんの事故の事が知りたいんだ?」

 「...気になる事があるんだ。どうしても、それを確かめたい」

 俺の意が伝わったのか、重い腰を上げソファに腰掛ける。俺も向いに座ると、渋々と言った感じで当時の事を少しずつ話し始めた。
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