エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 お墓参りの後、見せたい物があるからと言われ祖父母の家にお邪魔しリビングで待っていると、おばあちゃんはお母さんの遺品が入った大きな箱を抱えて戻ってきた。
 運ぶのを手伝い、ローテーブルの上にそれを置く。

 「実はね、優茉ちゃんが結婚する時に渡そうと決めていた物があるの。見てくれるかしら?」

 母方の祖父母にも、今年のお正月に新年の挨拶を電話でした際、婚約した事やいずれ挨拶に伺う事を伝えていた。

 おばあちゃんは蓋を開けて、その中から小さな箱を取り出し私に手渡す。

 「これは...?」

 「開けてみて?これはね、私が結婚する時に頂いた物で、優佳が結婚した時にあの子に渡した物なのよ。
 その時ね、優佳が言っていたの。もしも私に女の子が産まれたら、その子が結婚する時に私もこれを渡してあげたいって」

 そっと箱を開けると中には、真っ白に輝く光沢のあるパールが一際美しいネックレス。
 おばあちゃんが結婚した時のものという事は、もう四十年近く前のもの。それにも関わらず、ネックレスの輝きはもちろん、箱もまだ新品のように綺麗で、とても大切にしていた事が伝わってくる。

 「これを、私に...?」

 「そう。きっと優佳も喜んでいるわ!優茉ちゃんが幸せに暮らしている事が、優佳が一番願っている事だと思うもの」

 お母さん...。気がつけば、ツーッと冷たいものが頬を伝い、慌ててそれを手で拭う。

 でも、今の私は、これを受け取る資格があるの...?


 大きな箱の中からは、お母さんが生前使っていたバレッタやイヤリングなども出てきて、ずっとしまっておいても仕方ないからと、私に譲ってくれた。

 箱の中を覗くと、思い出の品が所狭しと詰まっていて、「自由に見てね」と言われその中からいくつか手に取って見ていると、隙間に挟まっている一枚の紙切れを見つけた。

 それをそっと引き抜いて見ると、新聞の切り抜きだった。
 日付はお母さんが亡くなった日の翌日。どうやら、事故の事が載っていた当時の新聞記事を切り抜いた物のよう。

 この箱は以前にも見た事があるけれど、この切り抜きは初めて見つけた。当時の新聞などもちろん見た事がないので、興味本位でそれを眺めた。

 "交差点に車が突っ込み、運転手と歩行者の二名が死亡"
 そんな見出しから始まった記事は、目撃者の情報を元に詳しく当時の状況が書かれていた。
 運転手の女性が、病気の発作でアクセルを踏んだまま意識を失い、暴走した車に横断歩道を歩いていた女性と赤ちゃんがはねられた。

 そして、そこには被害者であるお母さんの名前と共に、加害者となった女性の名前も載っていた。



 ...... 香月、優紀子?


 香月って...... 、 ま、まさか...




 思いがけずよく知った苗字に、一つの考えが頭をよぎる。さーっと血の気が引いていくのを感じ、ぺたんとその場にへたり込んだ。

 「優茉ちゃん?どうしたの?」

 しばらくフリーズしたまま口を開かない私を心配そうに見ていた二人は、私が手にしていた物を見つけ、申し訳なさそうに謝る。

 「ごめんね、こんな切り抜きが入っていたなんて...すっかり忘れていたわ。こんなもの見たくないわよね」

 そう慌てて箱をしまおうとするおばあちゃん。

 「おばあちゃん、この、事故を起こした女性の事、どんな人か知っているの...?」

 「えっ? ...私も、よくは知らないわ。ただ、搬送された先が香月総合病院で、どうやらそこの院長の奥さんだったって事は、後から聞いたけれど...」

< 158 / 217 >

この作品をシェア

pagetop