エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
柊哉side

 カナダでの数日間に及ぶ学会を終え、俺はアメリカ行きの飛行機に乗り込んだ。
 どうしても、優茉のお父さんと直接話がしたかったから。頂いていた名刺の番号に電話をし、仕事の後に会う約束をさせてもらった。

 待ち合わせをしたのは会社近くのカフェ。そこでしばらく待っていると彼女のお父さんが現れた。

 コーヒーを注文し挨拶の言葉を交わした後で、俺が本題をきりだすと彼は全てを分かっているかのように、穏やかに話を聞いてくれた。

 「...あの事故の事は、誰のせいでもないと今はそう思います。不幸が重なってしまっただけだと。君も辛い思いをした一人なのだから、私に謝る必要なんてありません。
 優茉にも話した通り、二人がそう決めたのなら反対などしません。優茉があんなに幸せそうに笑えているのは、香月さんのおかげです。これからも、優茉の事を頼みます」

 彼の優茉への愛の深さが、ひしひしと伝わってくる。
 こんな俺を受け入れ、大切な娘を託してくれた。その想いに応えられるよう、逃げずに正面から向き合い、彼女を愛し続ける事を改めて心に誓った。


 そして帰国後、優茉の話を聞き驚いたが、それ以上に彼女は俺の話に驚いていた。

 「お忙しいのに...わざわざ父に会いに行って下さったんですね...」

 「どうしても、直接話がしたかったから」

 「柊哉さん...ありがとうございます」

 「いや、俺の方こそありがとう。本当に...、優茉は強いな」

 「...柊哉さんの、おかげです。柊哉さんがくれた愛が、私を強くしてくれたんです」

 頬を赤らめている彼女を強く抱きしめる。
 愛の大きさゆえに失う事を恐れていた俺とは違い、前をむき続ける彼女には感服の思いだった。


 そしてその週末、三人で彼女の母方の祖父母の家を訪ねた。

 優茉のお父さんが大方話をしてくれていたようで、神妙な面持ちの二人に出迎えられた。
 門前払いも覚悟していたが、リビングへと通され彼女の祖父母と向かい合う。
 初めに父さんが口を開き、あの事故のことを謝罪し俺も一緒に頭を下げた。

 しばらくの沈黙の後で、頭を上げてくださいと声をかけられ視線を上げると

 「あの時は...、娘の手術をして頂いて、ありがとうございました。...ずっと、いつかお礼を伝えたいと思っていたんですが、まさか、あの時亡くなられた女性のご主人だったなんて...」

 そう話す彼女の目は微かに潤んでいる。

 「...助けることができず、本当に申し訳ありませんでした」

 再び頭を下げる父さんを彼女の祖父が制し、言葉を続ける。

 「私たちは決してあなた達を恨んでなどいませんから。二十年以上経った今でも、娘を想うと涙が出ますが、あれは不幸が重なってしまったこと。
 あなた達も、私たちと同じくお辛い思いをされたのでしょう?」

 顔も見たくないほど恨まれていたっておかしくない相手のはずなのに、俺たちを気遣う言葉までかけてくれるなんて...本当に優茉の家族には愛の深さを思い知らされた。

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