エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
柊哉side

 医局で橘先生に挨拶をし、そのまましばらく話し込んでいた。明日のオペの事もあったが、話題はプライベートな事にも及んでいく。父親の知り合いで、昔から俺を知っている橘先生との方がよっぽど親子らしい会話だ。

 一旦医局をあとにしナースステーションにも顔を出そうと歩いていると、ひとけのない廊下に座り込んでいる女性の姿が。
 遠くからでも肩で大きく息をしているのがわかり、異常事態だと判断して駆け寄った。

 「大丈夫ですか?」

 近づくと、女性は壁にもたれてぐったりとしている。思ったよりも重症かもしれない。
 それに先ほどから聞こえている喘鳴が混ざった弱い呼吸音...喘息発作か?

 かろうじて意識がありそうなので、肩を強めに叩いて声をかけながら、傍に転がっていたバッグの中から吸入薬を探し出した。

 「わかりますか?薬吸入しますよ、大きく息吸ってください」

 声をかけながら呼吸に合わせて何度か薬を吸入させたが、あまり取り込めてはなさそうだ。それにぐったりと脱力しているのも気になる。
 すぐに運んだ方がいいと判断し、スマホを取り出し呼吸器内科にいる友人にかけた。

 「もしもし?香月?もうこっちに帰ってきたのか?」

 大学時代から仲が良かった友人だが、今はゆっくり話している場合ではない。

 「ああ、その話は後でする。今脳外の病棟におそらく喘息発作で倒れてる女性がいるんだ。そっちに連れていっていいか?」

 「え?ああ、俺も今病棟にいるから処置室連れてきて」

 「了解」

 電話をしている間も、苦しそうな姿に思わず背中をさすっていると、ふいにビクッと身体が揺れた。さっきより意識がはっきりしてきたか?

 「わかりますか?呼吸が苦しいほかに痛いところは?」

 俺の声に反応して、女性は初めて顔を上げた。


 その瞬間......


 ドクンっと俺の心臓が大きく跳ね上がった


 真っ白な肌に、くりっとした大きな瞳...
 その潤んだ瞳で見つめられた瞬間、記憶がフラッシュバックするように物凄い勢いで頭の中を駆け抜けた。


 まさか... この子は...

 
 その一瞬、思考が停止してしまい微動だに出来なかった。そんな俺を、彼女は少し困ったように見つめていて...

 「あの... すみま、せん」

 まだ浅い呼吸のなかに小さな声が聞こえて、ハッと我にかえる。

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