エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
バラ <奇跡>
〜About two years later〜


 「柊哉さん、行ってらっしゃい」

 「優茉も。終わったら連絡してね」

 結婚して約二年が経った今も、変わらず毎日手を繋いで一緒に出勤し、別れ際頭を撫でてくれる彼の瞳は甘い。

 この二年で、柊哉さんは海外での難しいオペを成功させメディにも取り上げられ、以前よりもさらに有名な存在となった。
 そのため、国内外に問わずオペの依頼も増え、家を空けることも多く相変わらず忙しい日々だ。

 それでも彼自身は何も変わらず、一緒にいる時は惜しみなく愛を注いでくれる。...いや、年々甘さや過保護さは増してきているようにすら感じる。

 仕事中でも、たまたま会えた時は甘い笑顔を向けてくれるようになり、初めの頃は周りにとても驚かれた。あのクールな香月先生が、あんな顔をするのか...と。

 それも二年も経てば周りも慣れ、結婚も周知の事実となり、私も"香月さん"と呼ばれる事が増えた。
 そのため昨年ネームプレートも宮野から香月に変更したけれど、私自身は特に変わらず、お仕事をして帰って彼の為にご飯を作る穏やかで幸せな日々を過ごしている。


 「優茉ちゃん、今のうちに一緒に休憩入っちゃいましょう!」

 「そうですね、午後は忙しくなりそうですし」

 「優茉ちゃんもお弁当よね?でも今日も外暑いし、食堂で食べる?」

 「...その方が良さそうですね」

 本当は外で食べる方が気持ちが良くて好きだけど、ちらっと窓から外を見ただけでもジリジリと日差しが照りつけているのがわかる。

 七月に入ると一気に暑くなり、夏バテなのか最近は身体の怠さが続いている。そのせいか食欲もなく、柊哉さんのお弁当とは別にサラダとトマトにフルーツなど、あっさりと食べられそうなものを詰めたお弁当をもって天宮さんと食堂へ向かった。

 「...優茉ちゃん、お弁当それだけ?もしかしてまたダイエット中とか?」

 「あ、いえ、特にそういう訳ではないんですけど、夏バテ気味なのかあまり最近食べられなくて。食べると胃が気持ち悪くなったりもするので、あっさりした物にしていて...」

 「そうなの?...それっていつ頃から?」

 「えっと...、二週間くらい前かな?」

 「ねぇ、それって悪阻だったりしない?」

 「......へ?」

 「実はね、まだ職場には言ってないんだけど、私妊娠したの」

 「えっ! おめでとうございます!お身体は大丈夫なんですか?」

 「ありがとう、私は悪阻が酷くないタイプみたいで、たまに夜気持ち悪くなったりするだけなの。でも、私も最初は夏バテかな?と思ったのよ。優茉ちゃんの症状と似てるし、その可能性はない?」

 私が、妊娠...?

 正直、天宮さんに言われるまでその二文字は全く頭になかった。

 でも最近は特に避妊はしていなかったし、もしも本当に妊娠していたら...そう考えただけで自然と顔がニヤける。
 私と柊哉さんの子どもが...?そんな奇跡が起きてくれたの...?

 「ふふっ、私の勘当たってると思う!さっそく帰りに検査薬買って帰った方が良いわ」
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