エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
天宮さんにそう言われ、少し浮かれそうになったけれどまだそうと決まったわけじゃない。本当にただの夏バテかもしれないし、これくらいの体調不良はよくある。
そう言い聞かせても、心のどこかで期待している自分がいる。
逸る気持ちをおさえて、何とか落ち着いて午後の仕事を終わらせ、ドラッグストアで天宮さんに教えてもらった検査薬を買ってから急いで帰宅した。
柊哉さんは昨日当直でお昼頃に帰ったので、きっとまだ眠っているはず。そう思いそっと玄関の扉を開けると、靴はあるけれどやはり真っ暗でシーンとしている。
もし違ったら検査したことをあまり知られたくはないので、今のうちにやってしまおうとすぐにトイレに駆け込んだ。
説明書を見ながら手順通りにし、台の上にそっとそれを置く。すると、みるみるうちに線が現れ、それは陽性を示していた。
線、出てる...。じゃあ、本当に、私...
信じられない気持ちで、呆然としばらくそれを眺めてしまった。でも何度見ても何度確認してもそれは陽性を示していて、じわじわと嬉しさが込み上げ涙が出そうだった。
とにかく、柊哉さんにも早く報告しないと!そう思っていると、ドアの外から物音がしていることに気がつき、急いでトイレから出て彼を探す。
寝室のドアが開いていたので覗いたけれど姿はなく、リビングも明かりがついていない。どこだろう?と思っていると、バスルームの扉から光が漏れていた。
思わずガラッと勢いよくドアを開けると、シャワーを浴びたようで濡れた髪をタオルで拭いている彼の姿があった。
「っ、優茉、おかえり。...どうしたの?」
「柊哉さん!これ、見てください!」
「え?...これって、まさか...」
じっと私が差し出したものを見つめたまま数秒フリーズした後で、バサっとタオルを落としぎゅっと勢いよく抱きしめられた。
「優茉!ありがとう!すごく嬉しい」
そう言いながら苦しいくらい強く抱きしめられ、「すごい...信じられないな...俺たちの子どもか...」と噛み締めるように呟いている。
喜んでくれた事が嬉しくて、そんな彼が愛おしくて、私も腕を伸ばしてぎゅっと抱きついた。
しばらくそのまま抱き合っていると、急にハッとしたように身体を離され「優茉、身体は?大丈夫なの?自分で検査したって事は、何か症状があったんでしょ?」と確認するように顔や身体をあちこち触り始める。
「あ、今のところは大丈夫です。少し夏バテのような感じがあって、それを天宮さんに話したら、もしかしたら悪阻じゃないかと言われて...」
「それいつから?夏バテのようなって?具体的な症状は?」
「え?あ、えっと、食欲があまりないのと、胃が少し気持ち悪くなるのと、身体が少しだるい感じがするくらいで...わっ」
話している途中で急に抱き上げられ、そのままソファに寝かされる。すると、瞼の下をみたり首のリンパを触ったり「お腹みせて?どの辺りが気持ち悪い?」となぜか診察が始まってしまった。
「あ、あの、柊哉さん?大丈夫です、今は気持ち悪くないですし、どれもたまにでる軽い症状ですし...」
「いつから?どうしてすぐ言ってくれなかったの?ご飯は?ちゃんと食べてた?」
次々と飛んでくる質問に面食らっていると、お腹を触診し始めるので思わずその手を掴んだけれど「じっとしてて?」と手を外されてしまう。
「喘息は?悪化してない?最近変わったところはない?」
そう言いながら立ち上がり何処かへ行ってしまったので身体を起こすと、聴診器を手にすぐ戻ってきた。すると抵抗する間もなく、スッとブラウスの裾から手が入り胸にあてられる。
「や、柊哉さん!大丈夫ですから、私元気ですよ?」
それでも「優茉、しーっ」と人差し指を唇にあてられ、何も言えなくなってしまった。されるがまま一通り診察を終えると安心したのか、とりあえず大丈夫そうだねと抱きしめてくれた。
心配してくれるのは嬉しいし、柊哉さんはお医者さんだから私も何かあっても安心だけど...、お家でこんなに診察されるなんて思っていなかった...。