エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
柊哉side

 いや、今は余計な事を考えている場合ではない。すぐに運ばないと。
 まだくったりと壁に寄りかかっている彼女に声をかけてから抱き上げる。

 「え?あ、あのっ」と慌てていたが、抵抗する様子はなくやはり身体に力が入らないようだ。

 「すぐに処置した方がいい。まだ苦しそうだし、自力で動けないだろう?ゆっくり深呼吸する事だけ考えてて」

 そう言いながら、さっき歩いてきた道を足早に戻り二階下のフロアにある呼吸器内科まで階段を駆け降りた。その間も彼女はまだ辛そうに目を閉じてじっとしている。

 いまだに俺の心臓はドクンドクンと痛いほど強く打ち付けているが、少し冷静になって彼女を見てみると事務員の制服を着ている。
 そしてネームプレートには"脳神経外科クラーク 宮野優茉"と書かれていた。


 宮野、優茉...


 記憶を遡っても、その名前に思い当たるところはない。それでも、彼女はあの時の女の子なのではないかという期待が胸の中でどんどんと膨らんでいった。


 呼吸器内科のフロアに到着し処置室に向かうと、ドアの前で友人であり呼吸器内科医の結城 智也が待っていてくれた。

 「おう、香月!久しぶりの再会を喜びたいところだけど、その子の治療が先だな」

 「ああ、彼女が持っていた薬を吸入させたがあまり改善していない。脱力症状もある」

 「了解、とりあえずそこ寝かせて。香月、バイタルとってくれる?」

 結城の指示でバイタルをとってから、酸素を投与し採血をして点滴をつなげる。意識はありそうだが、声かけや穿刺にも反応はなく、ぐったりと目を瞑ったままだ。

 「喘鳴がひどいな...」

 聴診器で呼吸音を聞いている結城が顔を顰めぼそっと呟き、近くにいた看護師に追加の薬剤を指示している。
 そしてひと通りの処置を終えた頃には、規則正しい寝息がたっていた。

 「とりあえずこれで様子みよう。採血の結果出ないとわからないけど、大きい発作だったし最低でも二.三日は入院した方がいいだろうな」

 「そうだな、サンキュー結城」

 入院する事が決まった為、彼女を空いていた個室へと移し部屋を出ると、結城がニヤニヤしながらこちらを覗き込んでくる。

 「で?あの子は?」

 「脳外のクラークらしいな」

 「...それだけ?」

 本当はそれだけじゃない事を期待しているが、今はまだ言わないでおく。

 「今のところはな。病棟の廊下にしゃがみ込んでいたのをたまたま見つけただけだよ」

 「ふぅーん? で、お前はいつ帰ってきたの?」

 「昨日だよ。勤務は明日からだけど、挨拶がてら医局に顔出してた」
 
 「そうか、相変わらず忙しそうだな。そういや脳外のクラークって、うちの天宮先生の奥さんだったと思うけど」

 「へぇ、天宮先生の。俺ナースステーションに顔出しに行く途中だったから、彼女のことも伝えておくよ」

 「ああ、よろしく。検査の結果次第では入院伸びるかもだけど」

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