エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 天宮先生と別れ、脳外の医局に着きそっと覗くと中には柊哉さん一人。

 「失礼します。柊哉さん、お弁当持ってきました」

 「ああ、優茉。ありがとう、天宮さんのところにはもう行ってきたの?」

 「はい、赤ちゃんとっても小さくて、でもずっしりと重さも感じて...なんだかとても神秘的でした」

 そう言いながら、堪らなくハグをして欲しくなって自分からぎゅっと抱きつく。

 「どうしたの?気持ち悪い?」

 「...いえ、でも、ぎゅってして欲しいです」

 「ふっ、いいよ。甘えたくなっちゃった?」

 「...はい」

 お腹がぶつからないように抱き寄せて、ふわふわと頭を撫でてくれる。

 「ふふっ、素直で可愛いけど続きは帰ってからね?」

 私は気づいていなかったけれど、彼には足音が聞こえていたようで、額にちゅっと一度キスを落としパッと身体を離すと同時に橘先生が入ってきた。

 「あれ、宮野さん久しぶり。ずいぶんお腹大きくなったねー!もう少し?」

 「はい、予定日まであと三週間ほどです」

 「そっかそっか、いよいよだねー。くれぐれも身体に気をつけてね。あ、生まれたら僕にも抱っこさせてくれる?」

 「もちろんです、是非抱っこしてあげて下さい」

 外来へと向かう彼に途中まで送ってもらい、ゆっくりと少し遠回りの道をお散歩しながら帰宅した。


 それからは、いつ出産になっても大丈夫なように入院グッズや赤ちゃんをお迎えするための準備をしたり、ヨガやストレッチで適度に身体を動かし、栄養バランスに気をつけながらも好きな物を食べて心と身体を整えていった。

 そして、今しかできない事をしておこうと思い、最近は柊哉さんにべったりと甘えている。

 重くなった身体でも、彼はお腹に負担がかからないよう横抱きで膝に乗せてくれ、私の気が済むまでぎゅっとしたりキスをしたりを繰り返す。

 「ふっ、可愛い。最近はどうしたの?やけに素直に甘えてくれるね」

 「...今しかできない、から...」

 「ん?どうして?」

 「赤ちゃんが生まれたら忙しくなるし、きっとこんな風に出来ないと思うから...」

 「もちろん今よりはバタバタすると思うけど、赤ちゃんが生まれても変わらないよ。
 親としての意識は変わっていくだろうけど、母親になったって優茉は優茉だし、俺の可愛い奥さんだよ。
 だからそんな寂しい事言わないで、これからもいつでも甘えていいんだよ?俺はその方が嬉しい」

 「柊哉さん...」

 「母親になったからって、無理に何かを変える必要なんてないよ。それに、無事に産まれてくるようにと色々頑張ってる優茉は、もうすでに良いお母さんだよ」

 「そんなこと...」

 「それに、赤ちゃんが眠ってる間はハグもキスもできるだろう?もちろんそれ以上もね」

 「そ、そうですね...」

 「だから何も心配いらないよ。今はとにかくゆっくり眠って身体を休めてあげること」

 そう言ってベッドに横になり、もう苦しくて仰向けには寝られない私を後ろからそっと抱きしめお腹を優しく撫でてくれる。

 「お腹張ってるね、大丈夫?痛くない?」

 「はい、痛くはないです。でも最近よく張るようになってきたので、もういよいよかな」

 「そうだね、もういつ産まれてもおかしくないから、俺も心の準備しとかないとな」

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