エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
デイジー <平和>

 「...くしゅんっ」

 四月の中旬にさしかかってもなお、関東ではまだまだ花粉の飛散量が多い時期。

 今朝のニュースでは、例年になくスギ花粉が大量飛散しておりまだまだ対策が必要だと言っていたのを、急いで着替えながら耳だけで聞いていた。

 花粉をはじめ色々なアレルギーを持っている私にとってはかなり辛い時期。
 今日も油断せず、家を出る前には花粉がつきにくくなるというスプレーをし、マスクにメガネという完全防備のスタイルで職場である香月総合病院に出勤する。


 「おはようございます」

 職員用入り口でコートに着いたであろう花粉を払い、メガネを取りながら挨拶する。

 職場である香月総合病院は、ほぼ全ての診療科を備えた中規模総合病院。
 この地区でのプライマリケアの中心になるとともに、専門診療科も充実していて、高度専門医療も提供している。
 さらには、回復期リハビリ病棟も併設し、急性期医療から社会生活への橋渡し的役割も担っているそう。

 その中でも特に、より高度な専門医療技術を求め多くの患者さんが来院するのが脳神経外科。

 この病院の院長は、数多の脳腫瘍患者を死の淵から救ってきたスーパードクターと言われ、メディアでも紹介されるほど。
 そのため、この分野には特に力を入れており名医と呼ばれるドクターが多数在籍している。

 私 宮野 優茉(みやの ゆま) は、この春から脳神経外科病棟のクラークとして働きはじめて二週間ほどが経ち、ようやく入院患者さんの手続きやカルテ作成管理などの事務作業に慣れてきた。

 しかしクラークの仕事は事務作業のみではなく、看護師や医師のサポート、診療器具や薬剤の準備に片付け、検査室への患者さんの送迎などなど...
 全ては把握しきれないほど多岐にわたるのだとこの二週間で思い知った。

 医療行為には直接関与しないものの想像よりもはるかに患者さんと関わることも多い。
 陰ながら支える立場ではあるけれど、直接感謝の言葉をかけてもらえる機会もあり、やりがいを感じている。

 まだまだ覚えることや勉強することは尽きそうにない。ロッカー室で着替えを済ませ、メモ帳を確認しながら病棟へと向かった。

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