エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
柊哉side

 院長が返事をして、訪問者を招き入れる。
 ゆっくりと開いた扉の先に立っていたのは... 先ほど頭に浮かんだばかりの彼女だった。

 扉を開けて一礼してから顔を上げた彼女は、院長の他に俺がいる事を確認すると目を見開き驚いた表情を見せた。

 そしてこの険悪な空気に彼女は「お、お話し中にすみません。失礼しました」とすぐに振り返りドアノブに手をかける。

 「いや、構わないよ。要件は?」

 院長にそう言われ再び向き直った彼女は「あの、これを。先日頼まれていた書類をお持ちしました」そう遠慮がちにこちらに近づく。

 「ああ、ありがとう。助かるよ」

 黙って二人のやりとりを眺めていた俺は、ある事を思いついた。
 

 ......突拍子もないが、深く考えている暇はない。
 
 今の苛立ちと勢いにまかせ、たった今思いついたばかりの計画を、咄嗟に口に出していた。

 「父さん、彼女が紹介したかった人です」

 二人の視線を受けながら立ち上がり、彼女の側までいき寄り添うように肩を抱く。

 「へっ⁈」

 先に声を上げたのは、彼女の方だった。
 完全に固まっている彼女の目を覗き、どうにか話を合わせてくれるよう懇願の思いで数秒見つめる。

 「彼女は脳外病棟でクラークとして働いている宮野優茉さん。俺が結婚したいと思っている女性です」

 目を丸くして驚きながら俺を見上げている彼女の視線をかわしながら、父親を見て続ける。

 「俺は彼女以外の女性と結婚する気はありません。ましてや、あなたが決めた女性と結婚する気などありませんから」

 院長は驚いたように俺たちを交互に見て、言葉を詰まらせている。
 彼女の用事も済んでいるようだし、一刻も早くこの部屋を出たい。

 「では、そういう事なので。仕事に戻ります」

 そう言って彼女の背中に手を添えて出口の方へと促す。黙ったままの院長の視線を背中に感じながらも、足早にその場を後にした。

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