エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
......。
い、今、何て言ったの......?
私の聞き間違い...?
数分前から色んな事がありすぎて、未だに頭も心も追いついていない。
院長室に届け物をしに行っただけなのに、そこには香月先生がいて、しかも何やら険悪な雰囲気で先生は見た事ないほど冷たく鋭い目つきをしていて...驚いた。
でも、そこからそれを遥かに超える驚きが何度も来すぎてもう私の脳内はキャパオーバーだ。
いきなり肩を抱かれてピッタリと寄り添うようにされたり、長身の背を屈めて耳元で囁かれたり...。
心臓が、止まるかと思った...
ドクンドクンと大きく叩きつけるような鼓動は落ち着いたものの、今でも動悸は治っていない。二人きりで向かい合ってお話しする事も緊張しているのに、今、何て言ったの...?
一緒に、暮らしてほしい...?
頭を整理するようにただ黙って瞬きを繰り返す私に「聞いてる?」とグッと距離を縮めて顔を覗き込まれ、思わず後退りした身体を戻す。
「は、はい。聞いていますけど...一緒に暮らすって、本気、ですか...?」
もちろん冗談を言っているようには見えないけれど、突然すぎて香月先生が何を考えているのかいまいちわからない。
「ああ、本気だよ。お互いの事を知るには一番手っ取り早いと思わない?一緒に暮らしていれば、今のような心の壁は感じなくなると思うし、それが自然な空気を出せる事に繋がると思う」
...待って。言いたい事はわかったけれど、そもそもその役は私では無理なのでは...?
「あの、確かに先生の言う通りだと思います。ですが、それは私なんかでは務まらないかと...」
「どうして?」
「私は一般家庭で育ったただの事務員ですよ?私と先生とでは到底釣り合いません。
そもそも、院長から会おうと言われる前に別れなさいと言われておしまいなのでは...?」
そう言うと、香月先生は苦笑いをした後少し俯いて、どことなく不機嫌そうな顔になって...
「じゃあ、俺に釣り合う人って?」
「え? えっと...」
「どこかのご令嬢?顔も見た事ない父親の知り合いの社長の娘?」
「い、いえ...」
先ほど院長室で見たような鋭い視線...。 私、余計な事言っちゃったかな...
「俺だって院長の息子というだけで、特別な生活で育った訳じゃない。それに、釣り合うかなんて周りがどうこう言う事ではないだろう?
俺は例え院長に反対されようが、縁を切られようが、本気で好きになった相手としか結婚なんてしない。そんな事まで親の言いなりになんて、絶対にならないよ」
...院長との事はあまり触れちゃいけなかったのかな?親子のはずだけど、あまり関係が良好そうには見えなかったし...
一見クールそうに見える先生だけど、内に秘めてるものが色々とあるのかな...?
「す、すみません...」
「...いや、俺の方こそごめん。さっき父親に言われた事に苛ついて...、それを引きずって強い言い方をしてしまったね」
ハッとしたように表情を戻して少しだけ微笑んだ先生は、先ほどとはまるで違った印象だ。