エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 「おはようございます」

 ナースステーションですでに働いている看護師さんや先生に挨拶をしながら自席に着き、PCを立ち上げ病棟管理日誌に目を通し、業務の指示など急ぎのものがないかを確認する。

 「おはよう、優茉ちゃん」

 同じく脳神経外科病棟のクラークで先輩の天宮 涼子(あまみや りょうこ)さんが荷物を置きながら隣の席に座った。

 「おはようございます、天宮さん。今朝は急ぎのものはないようです」

 天宮さんは二年ほど前からここのクラークとして働いており、つい先月までは一人で全ての作業をこなしていたという。

 クラークは病棟ごとに一人というのが一般的だけれど、脳神経外科は常にほぼ満床なうえに先生の人数も他の科に比べて多い。
 その為多忙を極めており、クラークの人数を増やす事になったそう。

 大学を卒業してから、この病院の外来受付を担当してきた私に話が回ってきたのはつい一ヶ月ほど前のこと。

 子どもの頃お世話になったこの病院に就職したいと思っていた私は、医療事務という仕事があると知り、持っていると就職に有利になりそうな医療事務検定、医事コンピュータ技能検定などの資格を大学在学中に取得した。
 その為か、働きはじめた頃からお世話になっていた先輩にクラークへの異動を強く勧められ、不安はあったもののその話を受けた。
 
 それから、クラークに必要になりそうな検査や薬剤の知識なども頭に入れておこうと、専門書を買って自分なりに勉強してきた。


 「優茉ちゃんがクラークにきてくれて本当によかったわ!吸収早いし勉強熱心だし可愛いし!」

  天宮さんは忙しいなかでもいつも優しく教えてくれる本当にいい先輩。看護師さんや先生方へのフォローも適切で細かいところまで気がついて。見ているだけで勉強になる。

 その上、スラっと長い手足にいつもツヤツヤの綺麗な黒髪を仕事中はハーフアップにしている。きちんとケアされた爪先まで綺麗で、大人の女性という雰囲気に憧れてしまうほど。

 私といえば、母親似らしいくっきりとした二重まぶたではあるものの、小さめの鼻に少し厚めの唇...。肩下まである少し癖のある髪を一つに纏めていて、身長も高くも低くもなく全てが平凡。
 童顔なせいもあり、未だに大学生と間違えられる私と天宮さんとでは、同じ制服を着ていても全く別物に見えてしまうほど...。

 「そんな...仕事もまだまだですしご迷惑かけてばかりですが、いつも優しく教えてくださって私の方こそ感謝しかありません」

 クラークとしての初日は、前日あまり寝られないほど緊張したのを覚えてる。けれど、幸いにも人間関係にはとても恵まれ、看護師さんや先生達も穏やかな雰囲気で迎えてくれたうえに、一緒に働くクラークの先輩が天宮さんのような方でとても安心した。

 「もぉそんな可愛いこと言っちゃって!優茉ちゃんが脳外で必要な知識の勉強もして頑張ってくれてること、みんなわかってるわよ。だから焦らないで少しずつ慣れていってね」

 「天宮さん...ありがとうございます」

 「さっ、まずは今日退院される患者さんの確認からね。でもその前に申し送り始まりそうだから行きましょう」

 「はい!」

 天宮さんの後をついていき、夜勤だった看護師さんや先生から今朝までの間にあった事や患者さんの様子、指示などを聞きメモしていく。
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