エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
柊哉side

 親友二人とゆっくり飲みながらたわいもない話をするこの時間は、心が緩んでほぐれていく感じがする。
 日本に帰ってきてから仕事ばかりしていたせいか、久しぶりにリラックスできた気分だ。

 「そういえば伊織、この前言ってた子はゲットできたのか?」

 「いや、まだそんな感じじゃないよ。なんて言うか...今までのタイプとは違って、どうしたらいいのかわかんない」

 お手上げだというポーズをする伊織に、翔はおかしそうに言う。

 「珍しいな、お前が苦戦してるなんて。女はみんなその笑顔とギャップでイチコロじゃないのか?」

 「ははっ、そんな訳ないでしょ。俺は柊哉みたいにカッコよくないし」

 「いや、お前の売りは可愛さだろ?まぁ表面だけで、内は策士で腹黒いけどな」

 「はははっ、翔には言われたくないよ」

 俺を挟んでの会話を飲みながら聞いていると、二人の興味はこちらに向いてきた。

 「で?柊哉は?カナダでいい子見つけてきた?」

 「いや、忙しくてそれどころじゃなかったよ」

 「本当か?まぁ忙しいのは本当だろうけど、お前もいつまでもそう言ってないで誰か見つけろよ」

 そう言われて、改めて優茉の事を考えた。自分の気持ちを整理する意味も込めて、昔のあの話も知っている二人に、事の次第を全て打ち明けることにした。

 一緒に暮らす事になったところまで話し終えると、黙って聞いていた二人は驚きの声をあげる。

 「マジで⁈ すげぇ展開だな...。あの時の子と再会したのも驚いたけど、お前がそこまでするなんて...」

 「本当に...。すごいね柊哉!何その恋愛漫画みたいな展開!続きがめちゃくちゃ気になるんだけど!」

 「続きもなにも、俺もここからどうしたらいいか自分でもわかってないんだよ」

 誰にも言えなかった思いも、酒の勢いも手伝って二人には素直に曝け出した。

 「はぁ?お前がそこまで必死に口説いておいて、わかんないって...。そんなのやる事は一つだろ?」

 「え? 一つって?」

 「柊哉は昔から恋愛には疎かったけど、まさか自分の気持ちにも気づいてなかったの?」

 「初恋でずっと忘れられなかった相手にやっと再会できて、しかも同棲までこぎ着けたんだろ?そんなの、あとはお前を好きになってもらう為に全力で攻めるだけだろ」

 初恋...? あれは初恋、だったのか?

 「柊哉はもうあの時からその女の子以外ダメだったんだよ。まともなお付き合いした事ないじゃん?今まで。
 やっぱり彼女が運命なんだよ!絶対逃しちゃダメだよ!でも翔みたいに攻めすぎもダメ。ちゃんと駆け引きを楽しまなきゃ」

 「恋愛でも腹黒いな、お前は」

 「腹黒いんじゃなくて、恋愛はお互いの駆け引きだよ。嫉妬も恋のスパイスって言うじゃん?」

 そんな二人の会話を聞いて、俺はようやく確信できた。確かに今までの恋愛で感じた事のないあの感覚はきっと、"愛おしい"という言葉で表すのだろう。

 本気で誰かを愛した事がない俺には、言葉で表すには難しいけれど、やはり気になるなんてレベルではなく、純粋に俺は優茉の事が好きなんだ。
 初恋..?それは考えた事がなかったけど、伊織の言う通り、俺はあの日から彼女に落ちていたのかもしれない。

 いや、きっとそうだ。俺はあの日からずっと、彼女を求めていたんだ。

 たった一人。 優茉だけを。

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