エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 案の定、寝不足のまま目覚めた朝。

 今日も仕事なのでのそのそと支度をして、いつもと同じ電車に乗るとスマホにメッセージが届いた。やっぱり昨日の出来事は現実だったんだなと改めて思い知らされる。

 "今週末、時間が取れそうだから持ってくる荷物の用意をしておいて。最低限の家具や家電は揃っていると思うけど、必要な物があれば買い物に行こう。"

 今週末⁈ ってあと二日しかないけど...

 私、二日後に引っ越すの?どこに住んでいるかも、どんな部屋かもわからないのに...。
 そう思っていると、もう一通メッセージが届いた。

 "さっそく急な話でごめん。優茉の都合が悪ければ別の日にするけど、なるべく早く一緒に暮らしたい。部屋は余っているし、二人で住むには問題ない広さだと思う。"と最後に住所が書いてあった。

 私の心を読まれているようなメッセージ...
 何て返事したらいいんだろう。

 でも承諾した以上、今さらグズグズ言っても仕方ないし、もう考えてもわからない。だって同棲の経験も、あんな完璧な人と話をする事も初めてだもん。

 もう開き直って、潔く流れに身を任せよう。

 それで先生が助かるなら。私も助けてもらったから。方法は全く違うけれど、恩返しだと思えばいいんだよね?

 そう考え始めたら、急に心が軽くなった。もう考えたって分からないなら、答えが出ないなら、悩んでいても時間の無駄。

 "ありがとうございます。わかりました、荷物用意しておきます。"

 簡潔な返信をして、スマホをポケットにしまった。


 病院に到着し、いつもの様に着替えを済ませ自分の席に着こうとした時、ナースステーションに香月先生の姿があった。

 珍しい...。そう思いながら挨拶をすると「おはよう」と仕事中にみるクールな表情で返される。

 看護師さん達と話しているけれど、やっぱり仕事中の香月先生は、あまり表情は変えず冷静でクールなイメージ。
 先ほどのメッセージを送ってきた人と同一人物とは思えないほど。

 それでも、看護師さん達は珍しくナースステーションで作業している香月先生をチラチラみたり、話しかけられると頬を赤く染め嬉しそうにしている。

 ...そっか、そういえば天宮さんが言っていたっけ。香月先生を狙っている人は山ほどいるって。じゃあ、もし私が一緒に暮らす事になったなんて知られたら...。

 絶対に病院内では私達の事は内緒にしてもらうようにお願いしよう...!

 そんな事を考えながら事務作業に取りかかろうとした時、横に人の気配を感じ振り向くと、香月先生が立っていて小さな封筒のような物を渡される。

 「これ、家のカードキー。渡しておくから、自由に使って」

 「...えっ?」

 差し出された物を受け取りながらも、慌てて周りを確認する。少し背を屈めて声をひそめているけれど、こんな事を誰かに聞かれたら大変。

 焦っている私を見て香月先生は「ふっ、じゃあ荷物よろしく」そう優しく微笑んでから行ってしまった。

 ...何?いまの。びっくりしたぁ...
 誰かに聞かれていないよね?天宮さんが来る前でよかった...

 それにさっきまで真剣な顔で仕事の話をしていたのに、急にあんなに優しく微笑まれたら...色々と心臓に悪い...。

 とにかく受け取った物をすぐにバッグにしまって、さりげなく周りを見たけど特別変わった様子はない。
 よかった。クラークという立場上、先生達に何かを頼まれる事はよくあるし、今もそうだと思ってもらえたかな?

 はぁ、何で私こんなにビクビクしているんだろう...もっと自然にいつも通りにしないと...。

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