エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
それから二日経ち、週末を迎えた。
香月先生は今日もお仕事があるらしく、夕方には終わるので迎えにいくと連絡があった。
先日電話が来てから、その次の日も先生が病院からお家に着くまでの間、電話で話をした。調理器具なども一通り揃っていると言っていたので、荷物は服や化粧品など身の回りの物と、その他はパソコンやお気に入りの本だけ。
スーツケースといつものバッグだけで収まった。どれくらいの間住むのかわからないけれど、元々荷物はそんなにないしこれだけあれば大丈夫だろう。
少し長引いたようで、連絡が来たのは十七時過ぎ。マンションの下に到着したとメッセージが来たので荷物を持って降りると、先生が車から出て待っていてくれた。
私に気がつくと駆け寄ってきて、すぐに荷物を持ってくれる。
「ごめん、待たせたよね。荷物は...これだけ?」
「いいえ、お疲れ様です。荷物はこの二つです」
私からスーツケースを預かって車のトランクに積んでくれた。詳しくないので車種などは分からないけれど、新車なのか真っ白なボディはピカピカで触るのも躊躇うほど...。
そう思って見ていると「乗って?」と助手席のドアを開けてくれた。
「あ、すみません。ありがとうございます」
...こういう時、どうしたらいいの?ドアを開けてもらうまで待つのは図々しい?でも勝手に開けられないし...。
男の人の車に乗せてもらった経験もないので、さっそく初めての事に戸惑ってしまう。
とにかく、靴やバッグがぶつからないように注意を払って乗り込んだ。
程よい柔らかさのレザーのシートは、まるでソファのように座り心地が良いうえに、先生の運転は穏やかでとても快適だった。
けれど、初めてのシチュエーションに緊張し、車内という閉ざされた二人きりの空間でどこを見て良いのかもわからず、気の利いた言葉ひとつも出てこない。
「大丈夫?疲れちゃった?」
「あ、いえ。大丈夫です。先生の方がお疲れなのに、迎えにきて頂いてすみません」
「迎えに来るのは当たり前だよ。それに、今日は書類の整理が大半だったから。そろそろ切り上げようとした時に、救急から呼び出されてちょっと遅くなっちゃったけど」
「そうだったんですね。患者さんは、大丈夫でした?」
「ああ、事故による骨折があったしオペにはなったけど、脳の方は異常なかったよ」
「そうですか、お疲れ様でした」
ちらっと先生の方を見ると、夕陽をバックに眩しいほど綺麗な横顔が目に入って、思わず心臓が高鳴り慌てて目を逸らした。
赤信号で止まると「どうかした?」と少し俯いていた私を覗き込むように視線を合わされる。
「いえ、何でもありません。
あの...私、男の人の車に乗せてもらうことが初めてで、どうしたらいいのか、わからなくて...」
もう挙動不審なのは気づかれているし、隠していてもきっと、お付き合いの経験が少ない事もすぐにバレる。
だったら、変に見栄を張らずに初めから白状してしまった方がいい。あわよくば、大人なお付き合いをされてきたであろう先生に、こういう時はこうするものだという所作を教えてもらいたいくらい。