エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 「でも優茉、一つ勘違いしないでほしいんだけど...」

 また思考が飛んでいると、そんな先生の声が聞こえてハッとした。

 勘違い......

 そうだよね、私は婚約者のフリをするために同居する事を頼まれただけ。
 つい美味しそうに食べてもらえた事が嬉しくて、あんな提案をしてしまったけれど、先生の生活を乱すような事はしちゃいけなかったんだ。

 ...バカだな、私。

 「すみません、わかっています。余計な事はしないようにします。干渉するような事も。ご飯の事は、自分の分を作るので一緒にと思っただけで...」

 慌てて言い訳のような言葉を並べる私に、先生は一瞬キョトンとする。

 「待って、違う。そんな事思っていない!ただ俺は、優茉に一緒に住んで欲しいとは言ったけど、家政婦のような事をして欲しいわけじゃないんだ。
 優茉も仕事があるし、俺も自分の事は自分で出来るから、あまり気を遣ったり頑張らないで欲しいって言いたかっただけで...」

 「...えっ? あ、わ、わかりました。ありがとうございます」

 ...よかった。とりあえずご飯は作ってもいいって事だよね?

 「優茉は、きっと自分でも気がつかないうちに溜め込んだり頑張りすぎたりするタイプだろう?この間の発作もそうだっただろうし。
 だから、ご飯を作ったり色々やってくれるのは本当に嬉しい。だけどそれで優茉の負担になるのは絶対に嫌だから、俺に気を遣って無理をするのはやめて欲しい。約束して?」

 「...はい」

 先生には、頭の中を読まれているのではないかと思う時がある。隠し事をしてもすぐにバレてしまうような...そんな感じがする。
 今日まであまりお話しする機会もなかったのに...。

 不思議な気分だったけれど一つ分かったのは、やっぱり先生はとても優しい人だという事。
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