エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
お仕事をしていたのかな?今日も途中で切り上げて迎えに来てくれたみたいだし。
邪魔にならないよう先生が戻って来たら挨拶をして、先に部屋に行って休もう。
......あれ? 私、布団持って来てない、よね?
身の回りの必需品にばかり気を取られて、普段はベッドだからすっかり寝る場所の事を忘れていた...。
仕方ないので今日はブランケットを借りてソファを使わせてもらって、明日にでも布団を買いに行こう。
そう考えながらコップを洗って戻しソファで待っていると、先生が戻ってきた。
まだ髪の毛は少し濡れていて、いつもあげている前髪は降りて目元にかかっている。Tシャツに黒のスウェットというシンプルな装いだが、先生くらいの人が着るととんでもなく色気があって、カッコいい..。
...いけない、見惚れている場合じゃない。
小説の参考にするだけ。頭の中にメモしておこう。
そう、ブランケット!借りなきゃ。
なんとか思考を戻して、キッチンで水を飲んでいる先生の元へ行く。
「あの、すみません。すっかり寝る時の事を忘れていて、布団とか持って来ていなくて...。今日はソファを—」
「ああ、寝室は一番奥のドアだよ。さっき案内し忘れていたね」
私が言い終わる前にそう言いながら、グラスをおいて廊下に向かっていくので、少し疑問に思いながらも後を着いて行った。
言っていた通り一番奥の部屋まで行きドアを開けると、そこにはドンっと大きなベッドが中央に一つ置いてあるだけのシンプルなお部屋。
「あ、あの...?ここは先生の寝室ですよね?私は自分の部屋で—」
「ごめん、ベッドはこれ一つしか無いんだ」
「はい。なので明日にでも布団を買ってこようかと...」
「どうして?この大きさなら、二人で寝られると思うけど?」
......っえ? ふ、二人でって...?
ま、まさか先生と、このベッドで一緒に...⁈
「えっと...、その...」
これは普通のこと...?確かに、本物の婚約者なら普通のことかもしれないけれど、でも私は違う...
さも当然のように言う彼を前に、何と言ったらいいのか、どうしたらいいのかわからず軽くパニックになる。
「もちろん、ただ同じ場所で眠るというだけだよ。でも、優茉が嫌なら俺はソファで寝るからベッドを使って?」
「い、いえ!私がソファを使わせてもらいます!これは先生のベッドですし、ソファでは疲れが取れません」
ソファも大きかったから、私なら全然寝られるけれど、長身の先生には狭いはず。
「じゃあ、同じ理由で優茉にもベッドで寝て欲しい。今日は少し寒いから、風邪をひいても大変だし」
...こ、これは、どうしたらいいの...?
でもあんまり抵抗するのも、変に意識しているようでおかしいし先生にも失礼だよね...?
「それに、もしも父親が家に来た時にベッドが二つあれば変に思われるんじゃないかな?婚約者なら、同じベッドで寝ているのが一般的だと思わない?」
そ、そうかもしれませんけど...。でも、そこまで徹底した方がいいってことなんだよね...?
それならもう、先生の言う通りにしよう。
「では、お言葉に甘えて私もベッドを使わせていただいて良いですか...?」
「もちろん、自由に使って。俺はもう少しやる事があるから気にせず先に寝ていて。おやすみ」
そう言って優しく微笑んで、ドアを閉めて行ってしまった。
...これで、良かったのかな?
どの辺で寝たら良いかも、そもそもこれで良かったのかもわからず、大きなベッドを前に立ち尽くす。
でも、今さらやっぱりなんて言えない...。
とにかく一旦部屋を出て、寝る支度を整えて本を持ってからまた戻ってきた。とりあえずお気に入りの本を読んで落ち着こう。
慣れない場所で眠るのは苦手だし、さらに先生と一緒なんて考えたら絶対に眠れない。
ベッドボードの上にブックライトを見つけて、それだけ灯して布団に入り本を読み始めた。
少しずつ心の緊張が解けていくのを感じた頃には、寝心地の良いマットレスとふわふわの毛布。そして爽やかだけどすこし甘いような心地の良い香りに包まれて、すっかり夢の中へと引き込まれていた。