エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
柊哉side

 翌朝、目が覚めると隣に優茉の姿はなかった。今日はたしか日曜日...スマホを見ると7:28と表示されていた。

 今日は午後から病院に行くつもりだったので目覚ましもかけていなかったが、優茉のことが気になりすぐにベッドを出た。

 顔を洗ってからリビングに行くと、キッチンで可愛らしいエプロンをつけた優茉が鍋を混ぜている。

 朝起きて出汁の香りがして、誰かが朝ごはんを作ってくれているなんて...。俺に気づいた優茉は、少し恥ずかしそうに微笑んで「おはようございます」と言う。

 ダメだな...朝から胸を締め付けられるような感覚に耐えられない。
 
 これは、何て言葉で表したらいいんだ...?

 感動? 愛おしい? 幸せ?

 ...たぶん、全部だろうな。

 あまり感じた事のない感情が一気に押し寄せてきて、胸が苦しい。
 なんとか「おはよう」と返してから、ぼんやりと優茉を見つめていた俺に「もう少しでご飯が炊けるので、座っていて下さい」と椅子をすすめてくれる彼女。

 手伝うべきなのは分かっていたが、頭がぼんやりとしてうまく働かない。言われた通り椅子に座り、卵焼きを焼く優茉をぼーっと眺めてしまった。

 数分後、炊飯器の炊き上がりの音がして我に返り、ご飯をよそって運ぶのを手伝う。
 お味噌汁にだし巻き卵、焼き魚にほうれん草のおひたし。朝からこんなに作ってくれたのか...優茉はこれが普通なのか?無理していないだろうか。

 「すごく美味しい、お店の料理みたいだ。朝から出汁をとったり大変じゃない?優茉はいつもやっているの?」

 思わず確認する俺に、彼女は少し照れたように微笑む。

 「はい。毎日ではないですけど、時間がある時はやっています。祖母に教えてもらった卵焼きは一番得意かもしれません」

 二日目の朝にして、俺はもう今までの生活に戻るのが怖くなっているほどだった。こんなに温かい日々を知ってしまったら、もう一人でこの家にいるのは辛くなりそうだ...。
 ここ数年あまり朝ごはんは食べていなかったがあっという間に完食し、朝から美味しいご飯でお腹が満たされる幸せに浸っていた。


 「優茉、今日は何か予定はある?俺は午後から病院に行くけど、午前は予定がないから良ければ買い物に行かないか?」

 「はい。予定はないのですが、本屋さんに行きたいと思っていたので...一緒に行ってもいいですか?」

 「じゃあ、ショッピングモールにでも行こうか。本屋さんもあるし、足りないものを色々見れるだろう?」

 「はい!特に足りないものはないですが、車でないとなかなか行けない場所なので行ってみたいです」

 予定が決まったので一緒に後片付けをし、それぞれ自室に戻り支度をする。
 リビングでスマホを見ながら待っていると、秋らしい色合いのシャツワンピースにニットのカーディガンを羽織った優茉が戻ってきた。髪の毛もハーフアップにしていて休日感があり、とても可愛い。

 「よく似合っているね。可愛い」

 自然と思った事が口から出ていたが、優茉は恥ずかしそうにしているだけで嫌がっている様には見えないので大丈夫だろう。

 車内では彼女が好きな小説の話をしてくれ、嬉しそうにいきいきと喋る姿もまた可愛かった。

 ショッピングモールに到着し、まずはお目当ての本屋さんへ向かう。
 優茉が選んでいる間に俺も医学書のコーナーをみたり、読みたかった雑誌を見つけ購入していると、少しして満足そうな笑顔の彼女が戻ってきたので、きっと欲しかった物が買えたのだろう。

 その後は優茉用のグラスを買ったり、俺のお弁当箱を選んでもらったり生活用品を少し買い足してから、カフェに入って早めの昼食をとった。

 「あまりゆっくり出来なくてごめん。全部見られなかったし、また来よう」

 「いえ、本も買えましたしお買い物楽しかったです!先生こそ、これからお仕事なのに連れてきて頂いて、疲れていませんか?」

 「大丈夫。俺も楽しかったし、むしろいい気分転換になったよ」

 カフェを出て車に戻り、スーパーに寄ってから優茉をマンションまで送る。

 「じゃあ、行ってくるね。遠慮せず家のものは何でも好きにしていいから。帰る時にまた連絡するよ」

 「はい、ありがとうございます。お気をつけて」


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