エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
金曜日、私はいつものように定時であがり、先生のお家に帰宅し夜ご飯を作っていた。
先生は当直明けで、確かお昼過ぎには帰られたはず。玄関に靴もあったし、おそらくまだ寝ているのだろうと思い起きるのを待っていると、ご飯が炊き上がったころタイミングよく先生が起きてきた。
「当直お疲れ様でした。ちょうどご飯できましたよ、食べられますか?」
「優茉もお疲れ様、おかえり。ご飯ありがとう、お昼は食べ損ねたからお腹減ったな」
寝起きのほわんとした感じで喋る彼は、やっぱり可愛い...。院内の鋭い目つきをした先生とはまるで別人だ。
今日は疲労回復効果を意識したメニュー。メインの豚肉は朝にんにくベースのタレに漬け込んでおいたので、それを焼いてご飯に乗せてテーブルへ運ぶ。
「いい匂いがする。いただきます」
手を合わせてから食べ始めた先生は、本当にお腹が空いていたようで、珍しくおかわりまでしてくれた。
「美味しかったよ、ありがとう。疲れが飛んでいった気分」
「よかったです。当直の時も、少しでもお昼ごはん食べてくださいね?」
「うん、気をつけるよ。
ところで優茉、明日は休みだよね?」
「はい。先生は明日もお仕事ですか?」
たしか明日はスケジュールに予定は入っていなかったと思うけど...
「俺も明日は休みなんだ。だから、予定がなければどこか出掛けないか?あまり遠くはいけないと思うけど」
「私は特に予定はありませんが...。先生はお疲れじゃないですか?せっかくのお休みなら休まれた方が...」
「いや、外に出た方が気分転換にもなるし、この間のショッピングモール以来一緒に出かけられていないから。どこか行きたいところはない?」
行きたいところ...?
これは、どっち?
お買い物のお誘い?それとも、レジャー的なお出かけ...?
話の意図が読めず、うーんと考えているフリをしてみる。
「どこでもいいよ?海までドライブでも、大きな本屋さんでも、水族館でも遊園地でも。俺は優茉が行きたいところに行きたい」
水族館?遊園地?本当にそんな所でもいいのかな...?大きい本屋さんも行きたいけれど、前から一度行きたかった場所がある。
「本当に、どこでもいいんですか...?」
「うん。足りないけど、いつもご飯やお弁当を作ってもらっているお礼だと思ってさ」
「いいえ、それは私が好きでやってることですし、そもそも食費は先生のカードで払わせてもらっていますし...。
でも、前から一度行ってみたかった場所があるんです。一人ではなかなか行こうと思えなくて...。大好きな小説の舞台にもなっている所なんです」
「うん、じゃあそこにしよう。明日楽しみにしてる」
その後、先生にはゆっくりお湯に入ってもらいその間に後片付けをして私も寝る支度を整えた。
リビングに戻りお水を飲んでいると、先生はソファでタブレットを見ているけれど、目をぎゅっと瞑ったり瞬きを繰り返している。
そういえば...目の疲れを癒すグッズがあったのを思い出し、部屋からホットアイマスクを持って戻ってきた。
レンジで温めるタイプの物なので、温かいのは数分程度だけれど、じんわりと目元がほぐれる感じがしてお気に入りのもの。
さっそくレンジで数十秒温め、先生のところへ持っていく。
「先生、五分だけ上を向いて目を閉じてもらえますか?」
「ん?」と不思議そうな顔をしている先生の手元からタブレットを抜いてテーブルに置き、目を閉じるように促す。
「こう?」とソファに背を預けて上を向いてくれたので、目元にアイマスクをそっと乗せた。
「ふふっ。どうですか?少し目の筋肉が解れる感じがしませんか?」
ピンク色の花柄のアイマスクはさすがに先生には不釣り合い過ぎて、思わず笑ってしまった。
「たしかに。じわじわ温まっていく感じが気持ちいい。ありがとう、優茉」
「五分くらいは温かいので、そうしててくださいね」
「ははっ、寝ちゃいそうだな」
「ベッドでした方がよかったですね。先生が寝ちゃったら、さすがに運べないので」
「じゃあ、寝てしまわないように何か話そう」
明日の予定を話しているとあっという間に五分経ち、先生がアイマスクを外して立ち上がろうとするのでまだソファに座っていてもらうようにお願いする。