エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 翌日、目が覚めると隣に先生の姿はなく、慌てて時計を見ると九時を回っている。

 やっちゃった...。先生はお仕事だから、朝ごはんとお弁当を作るつもりだったのに...。

 スマホをみると"今日はゆっくりするといいよ。ご飯の事や家の事は気にしないでいいから。行ってきます"とメッセージが入っていた。

 ...確かに昨日はなかなか動悸が治らなくて、疲れているはずなのに全然寝付けなかった。

 先生の言う通り、今日は少しゆっくりさせてもらってからスーパーに行って夜ご飯を作ろう。
 そう決めてベッドから降り、簡単に食事を済ませてから一通りお掃除や昨日出来なかった家事を片付ける。

 少し休憩してからスーパーへと行き、買い物をしながら今日のメニューを考えていた。

 先生は私が作ったものはなんでも美味しいと残さず食べてくれる。
 なんて事ない、どちらかと言うと和食中心の地味な料理だけれど、先生はしばらく海外に住んでいたのでこんな料理でも新鮮なのかと思っていた。けれど、昨日公園で聞いた話を思い出す。

 "子どもの頃に母を亡くしているんだ"

 まさか、先生も私と同じでお母さんを亡くしているなんて...知らなかった。

 子どもの頃っていくつの時だったんだろう...
 もしかしたら、家庭料理自体あまり食べていなかったから?なんて事ない料理が新鮮だった?
 もう傷は癒えていると微笑んでいたけれど、先生の笑顔は少し寂しそうにみえた。

 そんな事を考えながら買い物をして、いつもは和食ばかりなので今日は洋食にしてみようと思った。
 先生は何が好きだとかあまり言わないけれど、もしかしたらオムライスやハンバーグとかそういう物が本当は好きかもしれないし。

 今日はグラタンを作る事にした。実は昨日通りかかったレストランのメニューにグラタンがあり、美味しそうだなぁと思っていたから。
 ホワイトソースはバターを控えめにしあまり重くなり過ぎないようにして、アボカドのサラダとオニオンスープを作ったみた。
 ...でもサラダにアボカドは重たかったかな?作り慣れない洋食メニューは、付け合わせも何を選んだら良いのかあまりわからない。

 先生、何時に帰ってくるのかな。

 あとはチーズを乗せてオーブンで焼くだけというところまで用意し、ソファで本を読み始めた。


 十九時前に先生から、これから帰るとメッセージが来たので、オーブンをセットしてスープを温め始めた。
 ちょうど焼き上がった頃先生が帰ってきて、すぐに「いい匂いがする」と嬉しそうに言ってくれる。

 テーブルに並べると「レストランみたいだな」と柔らかい表情で笑ってくれた。すでにお家モードになっている先生は、まだ髪の毛はセットされたままできりっとしているけれど、口調も優しい。

 「美味しい!でもこれ、全部一から優茉が作ったの?大変だったんじゃない? 嬉しいけど、今日はゆっくりしていてよかったのに」

 「いえ、朝は寝坊してしまってすみませんでした。疲れは残っていないので大丈夫です」

 「そう?無理していない?」

 「はい、先生こそお疲れ様です」

 そう言うと、先生はピタッと食べるのをやめこちらをじっと見ている。
 ...ん? 私なんか変な事、言ったかな?

 「優茉、ここは病院じゃない」

 何の事を言われているのかすぐにはわからなかったけど、確か昨日もこの台詞を聞いたような...

 「お疲れ様です。しゅ、柊哉さん?」

 自分で気がつき改めてそう言い直すと「忘れてたでしょ?」とふっと笑ってからまた食べ始めた。

 これからはそう呼んでという事だよね...?
 たしかに、婚約者をずっと先生呼びはおかしいよね。呼び慣れていないと、咄嗟の時に言えないかもしれないし...。

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