エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 とにかく、グラタンは気に入ってもらえたようでよかった。明日は中華にしようかな... でも和食を挟んだ方がいい?
 お料理を作る事は好きだけど、メニューを決めるのって本当に難しい。

 後片付けをしてから明日のお弁当の用意をして、ソファで医療雑誌を見ている先生にコーヒーをいれると「ありがとう」と雑誌から目線を上げてにこっと笑ってくれる。

 ...先生の笑顔に、いちいち心臓がドクンと反応してしまう自分が嫌になりそう...。ソファでコーヒーを飲みながら雑誌を読んでいる姿も、それだけで絵になっていてとんでもなくカッコいい...。

 少し落ち着きたいし、先生の邪魔をしてはいけないので先にお風呂に入ろうと思った時、彼のスマホが振動し着信を告げる。
 すぐに電話に出た先生は、先程までのリラックスした表情から一転、眉間に皺を寄せ鋭い眼差しに変わった。
 あれは仕事用のスマホ。何かあったのかな...

 先生は電話をしながら自室へと向かい、すぐにコートを羽織って出たきた。

 「優茉ごめん、病院から呼び出しだ。事故で搬送された患者さん、頭部外傷でオペが必要になりそうだ。帰りは遅くなるだろうから、先に寝ていて」

 玄関に向かいながら早口で説明する先生の後を追って「わかりました、お気をつけて」なんとかそれだけを言って見送った。

 そのままになっていた雑誌とカップを片付けてから、お風呂に入る。
 先生、さっき帰ってきたばかりなのに...大変だなぁ...。
 彼の事を考え出すとどんどんネガティブな方向に行きそうだったので、言われた通り先に眠る事にした。

 でも、ベッドに入って布団に潜っても、しばらく身体が温まらない。最近先生と一緒にベッドに入ることが多かったからかな...。
 先生の温もりが恋しいなんて...私どうかしている。つい二週間ほど前まで、いつも一人でご飯を食べて一人で寝ていたのに。

 先生と一緒に暮らすここでの生活に慣れつつある自分が、怖くなった。後どれくらいここに居られるのかもわからないのに、私また前の生活に戻れる...?

 誰かが家にいてくれる安心感や温もりを知ってしまった今、それを失う事が急に怖くなった。
 いや、誰かじゃない。...先生、だから。

 いつも私を気遣ってくれる優しさ、美味しそうに私の作った料理を食べてくれる姿、病院とは違うリラックスした笑顔、ハグした時の先生の体温...

 もちろん失うことは決まっているのに、思い出すと苦しくなる。
 でも、自分の気持ちを認めたくない。きっと違う。家族のような温もりを感じて、それが嬉しかっただけ。

 溢れてきそうな気持ちに蓋をして、必死に気付かないふりをする。

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