エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
まだ山岸さんは面会できる状態ではない為、二人を病棟の出入り口まで見送る。
途中ナースステーションの前を通った時、香月先生は風見さんと話をされていたけれど、私たちに気がつき会釈をした。
すると、息子さんである瑞稀くんは笑顔でバイバイと手を振る。先生は一瞬虚をつかれたような顔をしたあと、表情を緩めてバイバイと手を振り返していた。
最後には奥さんにも笑顔で感謝の言葉をもらい、私は何もしていないけれど、きっと瑞稀くんの優しさで心が少し上を向けたのではないだろうか。
この病棟に来てから、幾度となく患者さんや家族の悲しみをみた。
脳の病気は、事故や急性の病気も多く、突然体の自由がきかなくなり日常が奪われ、辛いリハビリに耐えなくてはいけなくなる事もある。
本人はもちろん、周りの人達も突然の悲しみに心がついていかなくなる事も多い。
でも、その悲しみを乗り越えて前を向く為にはきっと、家族や大切な人の愛が必要なのだと思う。
家族の為に早く元気になりたい、また一緒に暮らしたい、支え合いたい...
その中には必ず愛があり、それが生きる原動力になっているのだと私は思う。
そんな場面を、何度もみた。そして、そんな愛に溢れた家族を見るたびに、少しだけ羨ましいと思ってしまう自分がいる...。
きっと山岸さんも、瑞稀くんや奥さんの愛で前を向けるはず。
「優茉ちゃん、あの子に折り紙おってあげたの?」
「はい。瑞稀くん、とてもお母さん思いの優しい子でした」
「そっか、きっと大丈夫ね。いい笑顔してたし」
「そうですね」
天宮さんとそんな会話をしながら、やりかけだったカルテの整理を再開した。