エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
先生が向かった先は、なぜかひと気の少ない備品倉庫室。
何かこっちに用があるのかな?と少し疑問に思いながらも先生について行くと、倉庫室の扉を開けて私を先に中へと入れる。
扉がガチャンと音を立てて閉まった途端、後ろから先生に抱きしめられた。
「っ⁈ 先生⁈」
まさか勤務中の院内でこうされるとは思わず驚いて固まっていると、先生は私の肩を掴んでくるっと身体を反転させ顔を覗き込んでくる。
「ふっ、なんで優茉が怯えているの?」
「...え?」
「俺は間違った事は言っていないと思うけど」
「はい、私も先生は正しい事を言っていたと思います。でも、あまりに迫力があったといいますか...」
「ははっ。優茉に言っているわけじゃないのに、あんまり怯えた顔をしているから。可愛くて抱きしめたくなった」
そう言いながら、優しい笑顔で頭をぽんぽんとされた。先ほどの恐ろしく冷たい目をした人と、同一人物とは到底思えない...。
それから、安田さんの事を先生に話すとすぐに橘先生に連絡をとり、追加の検査をしたところ右手の痛みはオペによる後遺症だとわかった。安田さんのように、後から遅れて出てくる症状もある為注意が必要なのだそう。
安田さんも安心したようで、痛みを和らげながらリハビリ通院となり、予定通り二日後に無事退院する事ができたので私もホッとした。
坂口さんはその一件があった後、自ら退職届を出しすぐに病院を去って行った。聞くところによると欠勤がちだった相原さんは、指導担当だった坂口さんと上手くいかず、挙げ句の果てには自分のミスを相原さんのせいにしていたそう。
メンタル的に不安定となり欠勤していたそうだけど、指導担当が風見さんに代わったのでおそらくもう大丈夫だろう。
それでも結局一人足りない事は変わらないので、しばらくバタバタとした日が続いたけれど、ようやく金曜日を迎え麻美との待ち合わせ場所へと向かっていた。