エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 麻美とご飯を食べる時は大抵いつも決まった場所。二人ともお酒は飲まないので、居酒屋ではなくイタリアンレストラン。

 お店に着くともう麻美は来ていて、こっちこっちと手を振っている。

 「ごめんね、お待たせ」

 「私も今きたとこ!久しぶりだね、優茉!会いたかった〜」

 そう言って毎度お決まりのハグをする。

 「この前は約束してたのにごめんね、あれからなかなか会えなかったね」

 「ううん、それより体調はもう平気なの?」

 「うん!最近は調子いいよ」

 「よかった。それより優茉!じっくり話聞かせてもらうからね!」

 目力を強め、ずいっと身体を乗り出して近づいてくる麻美にメニューを渡す。

 「私の事より、麻美だよ。本当におめでとう!詳しく聞かせてよ?」

 「ありがとう!でも、私の事は追々ね。先に優茉の話!あれからずっと気になってたんだから!」

 とりあえず二人でメニューを開くけれど、ほとんど見ずに結局いつもと同じものを注文する。

 どこからどこまで話そうか、すごく迷った。本当は仮の婚約者だって事がバレちゃいけないから、誰にも話さないつもりだったけれど...
 正直今の状況に自分でも戸惑っているし、なにより誰かに聞いて欲しかった。でも病院関係の人はダメだし、こんな事を話せるのは麻美くらいしかいない。

 彼との出会いから全てを話し、聞いてもらった。麻美はとにかく驚いているようで、箸を置き食べることを完全に忘れている。

 「...信じられない。あんたがそんな思い切った事してるなんて...。昔から恋愛とか全然興味なかったじゃない。それなのに、ほぼ初対面の男の人と同棲なんて!
 その先生本当に悪い人じゃないのよね?優茉、何か騙されているわけじゃないわよね?」

 「ち、違うと思うけど...。先生はただお見合いを断るための演技だとは思うけど、騙されているわけじゃ...」

 「でも、優茉は好きになっちゃったんでしょ?」

 ......。今まで考えないようにしていたところを、麻美が核心をついてくる。

 「うーん...、どうなんだろう。純粋に先生の為に何かしてあげたいって気持ちはあるけど...。それに、もし好きになっちゃったら後悔する事が分かりきっているから、考えないようにしてる」

 「でもさ、話を聞く限りその先生も優茉の事を好きだと思うけど。じゃなきゃ、わざわざ休みの日を一日使ったり、誰も見てない家でまでそんな演技なんてしないでしょ?
 少なくとも何とも思っていない相手に、そんな思わせぶりな事しないと思う。だって先生も、それで本気で好きになられたら困るわけでしょ?」

 「そうかもしれないけど、真面目な人だしそういう雰囲気を作り上げようとしているって事も...」

 「そこまでは私もわからないけどさ、優茉は自分の気持ちを抑え込まなくてもいいと思うけどな」

 「でも...もしも、もしも本当の関係になれたとしても、彼は大病院の御曹司なんだよ? 私なんかじゃ釣り合わないし、結局最終的な結果は同じだと思うの...」

 「はぁー。あんたはどうしていつも始める前から終わりを決めつけるの?
 優茉、前に幸せを感じると怖くなるって言っていたでしょ?私、この前雑誌で読んだんだけど、それって幸福恐怖症って言うみたいよ」

 「幸福、恐怖症...?」

 「そう。優茉はさ、ずっと心の中にお母さんへの罪悪感があるじゃない?自分のせいでって思ってるんでしょ?」

 「うん...。だって、七回忌の時に聞いちゃったの。私を守ったせいでお母さんは亡くなったって親戚の人が話してるの。だから、どこかでずっと私だけ幸せになるのはいけない事だって思っていたのかも...」

 「でも、もしも私がお母さんの立場だったら、優茉を守れてよかったって思うけどな。それに、自分がそばに居てあげられない分誰かと幸せになって欲しいって、そう願うと思う。
 だから、もうその考えはやめてもいいんじゃない?自分が幸せになる努力をしてみてもいいんじゃないかな?」

 自分が、幸せになる努力...?そんな事、考えた事もなかった。

 「優茉の方からも少しアクション起こしてみたら?あんたは昔から何にもしなくてもモテてたんだから、本気になったらきっとその御曹司先生も優茉に落ちちゃうんじゃないかなー!」

 麻美が冗談ぽくそう言って、空気を軽くしてくれた。いつもポジティブ思考な麻美には、私にはない考えや感情を教えてもらう事が多い。

 私の方からアクションを、か...。

 でもどうしたらいいんだろう?それに、本当にその道を進んでもいいの...?
 やっぱり全て予定通りで、お見合いが回避できたら今の生活はスパッと終わりを迎えるんじゃ...。

 あまり遅くならないうちにと、麻美と別れて帰路に着く。その間もずっと考えていたけれど、一人だとどうしてもマイナス思考になってしまう。

 やっぱり、傷つくのが怖いんだ...私。

< 76 / 217 >

この作品をシェア

pagetop