エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 家についてシャワーを浴びてから、寂しさを誤魔化すようにベッドでお気に入りの本を読み、少しだけ照明をつけたまま眠った。

 けれど、こういう時に限って怖い夢をみてしまい、目を開けると呼吸は乱れ冷や汗をかいていた。
 はぁ。こんな時、いつも一人でどうしていたんだろう。先生の温もりを知ってしまった今は、もう思い出せない。

 先生に会いたい... ぎゅってして、大丈夫だよって頭を撫でて欲しい...

 私、どんどん欲張りになっている...。こんな事、考えちゃいけないのに。
 でも、それと同時にさっき麻美に言われた事も思い出す。私から何かしてもいいのかな?声が聞きたかったって電話したら...迷惑?

 スマホを見ると、時刻は午前三時半。
 二時間ほど前に先生から、おやすみとメッセージが来ていた。

 仮眠中だったら申し訳ないしそもそもお仕事中かもだけど、でもメッセージだけなら大丈夫かな?
 迷った挙げ句、"当直お疲れさまです"とだけ送った。すると、すぐに既読がつき"優茉、まだ起きてたの?"と返事が来た。
 嬉しくてつい"嫌な夢をみて目が覚めてしまって"と送ると、今度はすぐに着信音が鳴った。

 「もしもし...?」

 「優茉? 大丈夫?」

 「はい。先生は今は?」

 「今夜は落ち着いていたから早めに仮眠をとって、さっき起きたところだよ」

 「お仕事中なのに、電話ありがとうございます。 先生の声が、聞きたかったんです。ちょうど、今...」

 安心したせいか、なぜか泣きそうになってしまい、何とか声に出さないようにする。

 「...優茉?今すぐ抱きしめたいのに、そばに居てあげられなくてごめん。
 優茉、大丈夫だよ。怖くないから。目、閉じてごらん?」

 先生の声が、いつもより少し低くてとても優しくて、耳から脳へと響くように伝わる。声を聞いただけで安心するなんて...私、重症かも。

 電話を切ってからも、先生の優しい声が頭に残り、安心してまた眠る事ができた。


 週末、先生はお昼過ぎに帰宅され、当直明けなので少し眠ってから一緒に夕飯を食べ、夜は二人でゆっくりと過ごした。ベッドに入ると、先生に抱きしめられ頭を撫でてもらって、微睡の中とても心が満たされていくのを感じた。

 この温もり、やっぱり安心する。 

 先生の香りも体温も、頭に乗せられている手も、優しく響く声も。


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